今がすでに完璧なのに

すごく仲良しの男の子と交際していた時期があった。交際する前もしてからも超仲良しで、まぁ、自然な成り行きでそろそろかなって時が来たけれど、なんだか全然うまくいかなかった。彼のことが大好きなのに、なんだかしっくりこないのだ。そんなことは初めてで、私はセックスに嫌悪感を持つタイプじゃないし、彼のことも大好きなままなのに。

どうしてだろうと考えた時、私の頭に浮かんだのは「今のままでもう充分なんですけど…」という謎の感情だった。

充分だったのだ。手を繋いで飲みに行って、二人でベロベロになって、爆笑したりゲロ吐くだけで、私と彼は完成していた。それ以上にしたいことなんてなかったし、っていうかもはやその完成形から一歩も動きたくなかった。

私が超幸運だったのは、その気持ちを彼に話せたことと、彼も同じ気持ちだったこと。いつも通り安居酒屋で日本酒を飲みながら、お互いの心を見せ合って、ピタリと同じ気持ちだとわかった瞬間、私たちはお猪口をチン! と鳴らして、ひっくり返るほど笑って、それからものすごく安心した。愛しいとも思った。

だけど、結局私たちは「愛しているけど充分だからセックスしないまま付き合う」っていう選択肢を取らずに別れた。たぶん、お互いそういうタイプじゃなかったのと、勇気とかが足りなかったんだと思う。

繋がるために、勇気を出すのだ

彼と付き合って、きちんと話をできてよかったなぁと物凄く思う。彼のおかげで私は「愛しているけど充分だからセックスしないまま付き合う」っていう選択肢を知った。
こんなことを言うと「え、それなら付き合わなくて良くない?」とか言ってくる人もいるだろうけど、うるせえお前は誰だ。この世には数え切れないほどのお付き合いの形があるのだ。他人がとやかく言うことじゃない。

彼が教えてくれたもう一つの大切なことは、「正直な話し合いもセックス」だってこと。身体的に繋がることと、精神的に繋がることは、ほとんど同じことに思える。本当に繋がるためには、どちらもきちんと、丸裸になる必要があるのだ。ただ挿れれば良いってわけじゃないし、ただ喋れば良いってわけでもない。

なんて難しいんだろう。どちらか一つでもできればはなまるじゃない? そりゃあもちろん、両方欲しくたって良いんだけれど、どちらか一つが足りないからって、自分を責めることはない。全然胸を張って良い。

本当に愛し合っていれば、その二人なりの繋がり方がきっと見つかるはずだ。だからどうか、みんなと同じように交際をするのがしんどいことを嘆かないで。勇気を出して、丸裸の心を愛する人にさらけ出してみて。この記事が、大好きな私の友達に届きますように。

Text/長井短