彼でも良いし、岡田将生ならもっといい
別れた後は滅茶苦茶に荒れた。毎日のように酔っ払い、やりなおしたいだの彼に会いに行くだの喚くわたしに友人の1人がこう言った。
「あんた今、岡田将生に結婚しようって言われても、振り切って彼に会いに行くわけ?」
行くわけがない。当たり前だ。
それまで全力で悲劇のヒロインを演じていたのに、BGMをブチっと切られた感じがした。そう、わたしは本当に彼と一緒にいたいわけではなかった。わたしが執着していたのは彼ではなく、結婚の機会だった。
彼とわたしはこういう終わりを迎えたが、あのまま続いても上手くいかなかっただろう。そもそも彼はすべてにおいて理想が高く、怠惰なわたしとは相性が悪い。たとえばわたしが少し太れば、それを直接指摘はせずに、ふくよかな人にすれ違う時「デブを連れ歩くのってどういう気分なんだろうね」などとチクリと刺すような人だった。
そういうことの繰り返しで、合わせ調味料も粒状だしも、男のいる同窓会もやんわり禁止されていた。特に最後の1年くらいは、楽しいと思う瞬間もほとんどなかったように思う。大事な部分に目をつむりながら、欲しがり続けた結婚だった。
ひとりになったわたしが再び結婚のチャンスを得るには、他の男性と1から関係を築くしかない。でも、別れた直後のわたしは結婚――男か仕事の2択なら仕事の方がまだマシな気がしていた。マイナス100とマイナス120の差だ。男は裏切るが、仕事は裏切らないというアレである。
誰かに依存していると、失った時に立てなくなる。もうあんな思いはこりごりだ。だからわたしは1人で立てるようにならないといけないんだな。
彼の結婚式の様子がフェイスブックにアップされた夜、すっかり汚くなった部屋で粒状だしの味噌汁を飲みつつ、ひとりでそう思ったのだった。
Text/白井瑶
初出:2017.08.17
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