帰り道は、自然とまこちゃんと反対側の肩にバッグを掛けて歩いていました。もう緊張していた時間を思い出すのが難しいくらい。
新宿のなんでもない道でまこちゃんとお別れしたら、同じ街に立っているのに急に現実に放り出されたみたいでした。
それは遊園地の帰りに似ていて、たしかにさみしいけれど、知っているいつもの道が、遊園地にいた時間の延長みたいに特別に感じられます。
そういえば今日一日、面白いとか言われなかったな。
私はよく初対面の人に面白いですねとか変わってますねと言われて、そうするとあっという間にそのキャラクターに沿った振る舞いをしてしまいます。
それが耐えられないほどつらいわけでもなかったけど、そうやって自分を縛ってコントロールする瞬間が一切ないのはとても快適で、そんな時間が人生に存在するなんて思ってもみませんでした。
でも別に普段から、そんな風に自分を縛る必要はなかったのです。
縛っているとも、縛られているとも思っていなかったので、急に心がほどけて軽くなりました。こんなに軽くなれるなんて。
これまで私が苦手に感じていたのは、面倒臭いと思い込んでいたのは、どんな女性でもなくて、自分自身だったのです。
大人になっても女の子っぽい部分は心から消え去らないけど、それは悪いことではないし、自分が面倒に思えたって誰にも迷惑はかかりません。厄介な部分も含めて自分でいることを楽しめたらよいのです。
女性と触れ合って、笑ったり気持ちよくなったりできる事実は、私にとって大人の女性になっている自分を愛してもいい合図でした。特別な誕生日の出来事です。
あの日から、まこちゃんと触れ合った余韻で世界中を抱きしめられそうな気分がしばらく続いて、それは消えることがなく、いまは性別や性自認も関係なく、全てのだいじな人たちに寄り添っていきたい気持ちが、私にとっての拠りどころになっています。
まこちゃんみたいに。私も世界に向けて、「いっ」と大きく微笑みかけたいです。
Text/姫乃たま