無意識が繋がっていると信じて
しばらくして電気がついて、相手の人と感想を話し合う時、案の定「つま先が動きましたね」と言われたので、決まりが悪いような感じがしました。
しかし相手は続けて、「ちょうど心の中で声をかけたタイミングだったので驚きました」と言うのです。
彼は心の中で、「実際に会話をした時は年齢より大人びていると思ったのですが、いまはすごく少女のように見えます」と話しかけていたそうです。
はっと息を飲んで、私が思い出していたことを話すと、相手も目を丸くして、私たちはしばらく目で会話をしました。物を言わなくても、お互いの周波数が自然とチューニングされていたような、不思議な数秒間でした。
このメソッドは昏睡状態の人を目覚めさせるためではなく、あくまでコミュニケーションをとるためにあるという説明がありました。しかし、講師の女性がこれまで関わった人の中には、長い昏睡状態から目を覚ました男の子がいるのだそうです。
目覚めてから、彼は将来について、講師の女性のようになりたいと話しました。でも、昏睡状態の人にアプローチがしたいわけではないようです。講師になりたいわけでも、女性になりたいわけでもありません。具体的なことは説明されなかったのですが、「きっと彼は深いところまで一緒に降りていくことのできる人になりたいと思ったのではないか」と講師の女性は分析していました。肉体や心を超えて、無意識が人と繋がる瞬間。
つま先が動いた時、私は無意識のままどこにいたのでしょう。
なにか、とても暗くて深い暖かい場所が心に思い浮かんだけれど、今日も私は人の目を見て話せないし、コミュニケーションのとり方だって、特に丁寧にも能動的にもなっていません。
でも少しだけ、いま一緒にいる人たちとは、あの暗くて深い暖かい場所のようなところで無意識が繋がっているんだろうな、ということだけ信じています。
ほんの少しだけ。
Text/姫乃たま
次回は <私との記憶は心地よいものだと感じて欲しい。身勝手な想いを「消えた猫」に重ねて>です。
飼い主に死に際を見せずに去る猫の習性を子供の時からずっと不思議に思っていた姫乃たまさん。でも、自分が体調を崩したときに取った行動から、ふとその習性の意味がわかったような気がして…。 ヒューマン 女の人生 女の生き方 成長 懐古