自分を好きになってくれない人や身勝手な人ばかり好きになり、不安定な恋愛関係に陥ってしまう女性たちへ。
「私は最初から私を好きじゃなかった」――自己肯定感の低い著者が、永遠なるもの(なくしてしまったもの、なくなってしまったもの、はなから自分が持っていなかったもの)に思いを馳せることで、自分を好きになれない理由を探っていくエッセイ。
永遠なるものたち 000 はじめに
いつか、私はよく眠る子どもでした。
友達と遊びたくて、幼稚園がひらく時間よりずっと前から、登園しようとしていた弟とは大違い。珍しく母親が寝坊した日には、いつまでも気づかないふりをして、どきどきしながら頭まですっぽりと布団をかぶっていました。どきどきするくらいなら、母親を揺り起こしたらいいのに。でも、うとうとするのは気持ちのいいことでした。
なかなか眠れない夜も時々ありましたが、はやく目が覚めてしまう朝というのは、ほとんどやって来ませんでした。夜に眠ったら、いつでも朝までぐっすりだったのです。
だから私にとって、ふと明け方に起きてしまった時の空の色は、ものすごく特別でした。夏祭りで飲んだラムネの瓶のような、透き通ってはかない、薄っぺらの水色。初めて見た時は茫然とするほど心惹かれて、眠っている父親の脚をまたいで、窓に近づきました。いつもは早起きの弟も、母親も、まだ眠っています。
部屋の中まで空の色で満たされているような気がして、両手を広げました。でも、私の手が空に触れることはなくて、もちろん浮いたり飛んだりすることもありませんでした。その時の落胆にも似た気持ちが、あまりに甘く胸を締め付けるようだったので、私はもしかしたらあの瞬間、空の色よりも、その感覚に囚われてしまったのかもしれません。
それからもたまに、そういう空を見ることがありました。朝早く目が覚めることなんて滅多になかったのと、寝る前になると空を見るために早起きしようとは思わなかったので、本当にたまにですが、ふと、目が覚めて、あっ、と思うのです。
あっ、私が触れることのできない薄っぺらの水色だ。
夜の終わりと、朝の始まりの間にあるこの空には、たまにしか会えません。
第一、時間が短いので、もう少し早く目が覚めてしまうと暗いし、もう少し遅く起きると日が昇ってぎらぎらしています。でも、だからこそ私はあの空が特別に好きでした。空がひたひたに水色になっている時間は、あっという間に失われてしまうからです。
私はどういうわけか、小さい頃から“永遠なるもの”にばかり、心を惹かれてしまいます。
それはたとえば、すぐに移り変わってしまう薄っぺらの水色の空や、転校していったまま住所のわからない女の子や、いまは知らない人が住んでいる生まれた家でのことです。なくなってしまうもの。なくなってしまったもの。
それに私はいつか、自分がまったく違う人間になるのだと思っていました。私はどういうわけか物心ついた時から私を好きじゃなくて、同級生の女の子とか、誰を見ても私じゃないことが羨ましかったのです。そのことだけで私よりもずっと優れているように見えました。だから私は、私の手には入らないものや、行くことのできない場所にも憧れます。はなから私が持っていなかったもの。私なんかの手には入らないもの。私がいない世界。
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