不倫で病んだときに必要なのは「欲望の解体」だ/米代恭×ぱぷりこ対談

米代さんとぱぷりこさんの自画像

 「恋は盲目」の言葉どおりに高校時代の先輩(既婚)を偏愛しつづけるメンヘラ女子・かのんの切ない恋の変遷と同時に世界の危機の行く末を描く、新感覚不倫×SFマンガ『あげくの果てのカノン』(小学館)。
徹底的に掘り下げた心理描写に共感の嵐がやまない同作品の3巻発売を記念して、同じく、恋愛で悩む女性たちの心理を徹底的に掘り下げた新刊『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか 18の妖怪女子ウォッチ』が話題沸騰の外資系OL・ぱぷりこさんと、『カノン』著者の米代恭さんが、徹底対談。
不倫やセカンド女子沼に悩む女子必読の前後編です。

恋愛・結婚の幻想を破壊するマンガが増えている

――米代さんとぱぷりこさん、今日出会う前からお互いにファンだったとか。

米代恭

ブログ「妖怪男ウォッチ」やお焚き上げnote、いつも楽しみに読んでます。
私はマンガのキャラクターを作るときに、「こういう行動をする人の心理ってどういうことなんだろう」というのを考え抜くようにしていて。『あげくの果てのカノン』の準備をしているときにぱぷりこさんのことを知り、ずっと読んでいました。「こういうタイプの女の子はこういう風に思う」というのを、ぱぷりこさんはものすごく根源的なところまで解体している。そのやり方に共感しました。

ぱぷりこ

光栄です! 私は、普段から恋愛コンテンツを摂取するよう心掛けてるんですけど、『あげくの果てのカノン』については、1巻発売時に周りがすすめてくれたんです。恋愛相談や編集者さんとの会話の中でも毎回話題に上がって。セフレ沼や不倫沼にハマってる人たちが「共感しすぎてヤバい」と言ってましたよ。
『あなたのことはそれほど』(祥伝社)や『1122』(講談社)もそうですけど、恋愛や結婚へのゆるふわ幻想を破壊していく風潮は非常にうれしいと思ってます(笑)。

米代恭『あげくの果てのカノン』1巻画像 米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中
米代

ありがとうございます。「SFと不倫」というテーマは、担当編集さんから提案されたもので、それをどう描くか悩んだ結果生まれたのが『あげくの果てのカノン』です。一人の先輩に一途な片思いをしている女の子・かのんが、先輩が既婚者であり、そのうえ地球外生命体と戦うヒーローだったために、恋心と地球の危機のはざまで葛藤していくという。
ぱぷりこさんは『カノン』を読んで、どう思いましたか?

ぱぷりこ

地球の危機そっちのけで先輩に熱を上げるかのんのぶっとびぶりは、見てて楽しいですよ。私の新刊『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか 18の妖怪女ウォッチ』であてはめると、まず第一に「片思い女子」ですよね。どんな人も「片思い女子」から始まって、生身の人間とぶつかって、思い通りにならず、成長していくもの。
私自身、女子校育ちでしたし、10代のころは「恋愛はこういうふうに進んで、最終的にはハッピーエンド」というフォーマットを信じていた。かのんは、生身の相手を見るよりも自分の中にある相手像に恋をする「妄想女子」と、相手を信仰して崇め奉る「信者女子」も入っていて、思い込みが強固なものになっている。

ぱぷりこさん著書より女子分類チャート 妖怪女子分類チャート ぱぷりこ/『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか 18の妖怪女子ウォッチ』文藝春秋
ぱぷりこ

でも、『カノン』ではきちんと、その幻想を崩されていくじゃないですか。
2巻で、片思い=信仰の対象である境先輩の妻・初穂が主人公の前に現れて、そして3巻以降は、先輩本人も考えていることを語り出す。あれが良かったですね。だって、かのんの見ているものと先輩の見ているものって、全然違うから。

米代恭『あげくの果てのカノン』2巻画像 米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中