メンヘラと破壊願望

メンヘラとは往々にして、「自分はこんなに傷ついている!! お前のせいで! こんなに傷ついている!!!」ということを、とにかく激しく主張したくて仕方がないのだ。そのために、刃物を持ち出したり叫んだり、全身を使ってとにかく過剰なアピールをする。

つまりそれは、「わたしは今、お前のせいでこんなに傷ついているんだから、愛をくれ!!!」という脅迫である。ここまでくると「傷ついている」ことはナイフと同じく凶器。ナイフをチラつかせて愛を強奪しようとしているのだ。

本当に重要なのは「傷ついている」という事実ではなく、「愛をくれ」の部分なのだが、メンヘラは、とにかくそれをわかっていない。自分の本当に欲しいものがわからないから、破壊衝動へと突き進んでいく。

わたしは、メンヘラとは、石橋を叩いて叩いて叩いて叩き割る生き物だと思っている。愛の名の下に、全てを壊そうとしていた。愛されたいと願いながら、本当に愛してくれているのかいつも疑った。愛してるよと言われれば、これでもか? これでも愛してるのか? と執拗に詰め寄った。冷静に考えると、自ら嫌われにいくような行為だとわかるが、当時はあまりにも必死すぎた。自分のことを、不安で可哀想な愛に溢れた乙女だと思っていた。不安ゆえに愛ゆえに、二人の間の恋心や彼の愛情、彼自身、ひいては自分自身を、完膚なきまでに壊そうと全力を注いでいた。

そう、メンヘラの目的は壊すこと。自分自身を、壊してしまうこと。本当に欲しいものは「愛」のはずなのに、振られてしまえば、納得するのだ。「ほら、やっぱりわたしに愛される価値なんてなかった」と。
わたしはいつも、恋人にいつか本当に嫌われてしまうんじゃないかと怯えていた。そしてその恐怖に耐えられず、自分から別れを切り出す恋愛ばかりしていた。そして、自分から振ったくせに、やっぱり悲劇のヒロインに浸っていた。

「嫌いだった母親」に似ている自分

わたしが、自分のことをメンヘラだと悟ったのは当時の恋人と喧嘩をしたときだった。いつものごとくそこら辺にあるものを引っ掴んでは投げ、引っ掴んでは投げていたときに、ついにフライパンまで投げようとした瞬間「それは流石にダメだろ!」と叫ばれ、咄嗟に「お母さんには投げられたことがある!」と叫び返していた。そのとき、自分の口から母親が出てきたことに心底、びっくりした。

そして彼の言葉が決定的だった。「お母さんと同じことするの?」わたしはそのまま、トイレに行って吐いた。自分がすごく嫌だった母のように、自分がなろうとしている。こんなに怖いことはなかった。わたしはそこで初めて、自分でこのメンヘラ的状況を脱したいと誓ったのだ。

そこから、通院やカウンセリングなどプロにも頼ったし、本をたくさん読んだ。自分で自分が制御できないという状況を初めて受け止め、暴走する己の中のメンヘラモンスターとしっかりと向き合うことを決めたのだった。

今でも、わたしの胸には小さなメンヘラが住んでいる。たまに姿を覗かせるが、当時のような暴れん坊具合はとっくに失せた。恐らくそれは、あの頃よりはずっと自分を客観視することが出来るようなったからだと思っている。メンヘラというモンスターと完全にさよならすることは、今後も恐らく出来ないかもしれないが、この小さなモンスターを上手いこと飼い慣らして、これからもボチボチ付き合っていくしかないと思っている。

Text/うろんちゃん

初出:2016.12.28

次回は <「逆にウケる」でほとんどのことは解決する メンヘラモンスターの知恵>です。
元コテコテのメンヘラのうろんちゃん。愛されたいのに、あるいは愛されたいがゆえに暴れてしまう自分のなかのメンヘラモンスターをどうやって鎮めたらいいのか、その具体的な方法についてAM読者に提案してくれました。自分の不安を完全に消し去ることなんて他人には出来ないということを理解するためのワンステップです。