「子育て→仕事」という新しい就職スタイル

―では、20代のときの過ごし方で、今思えば…というようなことはありますか?

家入:私は、20代のときはもう子育てをしていたんですよね。

川崎:そうだよね、子育て真っ只中だったよね。でも、明子さんの“先に子どもを産んで、育て上げてから働く”っていうキャリアはひとつの新しいスタイルというか、希望になると思うんですよ。だって、30歳くらいって出産を意識する時期なのに、働いている女性にとってはキャリアチェンジの時期だったり、昇進したり大きなプロジェクトに抜擢されたりするときじゃない。そうすると、どの時期に子どもを産むかがすごく重要になってくる。だから、就職前に子どもを産むというのもひとつのルートじゃないかと。
「日本は新卒至上主義だからそれができないのよね」っていう議論で止まっているんだけれど、明子さんみたいにそのルートで成功した人たちがいるんだから、その人たちにどんなスキルがあるのかとか、子育てしながら何に興味を持っていたのかとか、今こういうふうに輝けている理由を6時間くらいかけてヒヤリングさせていただきたいですね(笑)。

家入:私の友人で大学を休学して出産した子がいるんですけど、卒業するときに「新卒で就職するべきだとわかってはいるけど、もう少しお母さんとして専業主婦でいたい」って悩んでいる子がいました。難しい問題ですよね。
でも今思えば、20代前半とかめちゃめちゃ子どもなんですよね。大人の扱い方もわからないし。私の場合は「働けないし」とか「仕事もできないし」とか「継続するのも苦手だし」とか、苦手なことやできないことへの意識もすごく強かったんです。でも、30代になった今、意外とできるようになっているんですよね。
お母さんを経験すると、そこへさらに主婦コミュニティで磨かれたコミュニケーション能力が備わるから、20代の新卒に比べればある程度のスキルを持って就職できるというのはメリットかもしれません。加えて、自分の能力を認めてもらうためにも、「私はおもしろいですよ」「こんなことができますよ」といった発信をしたほうがいいとは思います。

川崎:お母さん業は究極にマルチタスクですからね。微妙なママ友とのやり取りなんかも、人の心の機微なんかが解らないと乗りこなせないし。明子さんの場合は元夫の職業柄いろいろな人が家に来たりしてちょっと特殊な環境だったから、社会性のコミュ力も養われていたんでしょうね。文才があったことは置いておいたにしても、子育てしながら磨いたコミュ力や調整力を生かしてアウトプットしたという行動が成功につながっているのかも。

家入:いやいや、私、調整力が本当にないんですよ。それこそ苦手意識が強い部分です。ブログを書くにしても、長いこと苦手意識がありましたね。私のブログなんて、読まれても100人くらいだろうって思っていたし(笑)。

川崎:え~!あんなに大人気なのに。でも、本当にいい文章ですよね。大ファンです(笑)。
私、明子さんのキャリアはとても興味深くて個人的に聞きたいことでもあるんですけど、人材業界の人間として言わせてもらっても、こういう例がたくさんできたらいいと思うんですよね。

家入:私は、働いていないお母さんでも、PTAを頑張るとか、ボランティア活動に励むとか、家の外にも何かしら活動の場があるといいなと思うんです。自分の世界が家庭だけになってしまうと、世の中の役に立ててるぞという貢献感を得る機会が少なくなっちゃって、どんどん自分に自信を持てなくなってしまうような気がします。
子どもは育って離れていくのに環境は変わらないまま年を重ねて、親戚と一部の友人だけで構築されている状況の人が周囲にもけっこういます。別に外部に開いていくことだけが善とは思わないけれど、長寿の時代、子供が育ってからの余生は結構長いんで、ちょっとずつでも外に開いていけるといいような気がします。

川崎:そうですよ。人生は長い。長い人生を飽きないで何とかやっていくには、外に開いて行かないと。私は特に「自分に飽きる」「自分が閉じる」って耐えられないから、こんな仕事をしてるんだろうな、と時々思います。

家入:30,40歳くらいで「はい、一息~」ってなって、その後の4、50年が余生だと思うと途方もないことですよね。だからこそ、今の時代は、仕事とか趣味とか、属していられる居場所を、何かしら自分から掴みにいく必要がある気がします。じゃないと、自分が心細くなっちゃう時代。私も、最初はお金を度外視して非営利団体のサポートスタッフとして活動を開始しました。それが、その後の仕事につながってます。
ひとつの取っかかりからネットワークをたどっていけば、どこまでも広げられると思うんです。いきなり仕事を始めなくても、人の役に立つことを少しずつやっていくことは、きっかけになるんじゃないかな。

川崎:「ひとの役に立つ」か。なるほどね。それはひとつの入り口として、長いブランクのある人にとっても参考になると思います。

Text/千葉こころ