オジサンたちが食べる謎の魚料理

一軒目の焼肉屋では爆睡をしていた息子が目を覚まし「餃子が食べたい」というので、適当な食堂に入って餃子をオーダーしました。ちなみに韓国では餃子は「マンドウ」と呼ばれているのですが、その店のマンドウには、肉や韮のほかに春雨が入っていてとても美味しい。

韓国は辛いものばかりというイメージがあるせいか、子連れで旅行するというと「食べ物は大丈夫なの?」と心配されることも多いのですが、実は素材の味が生きている、あっさり系のメニューも多くある上に、お米もほぼ日本ものと同じもっちり系なので、恐れることはまったくない――と話がちょっとずれましたが、マンドウにがっつく息子を愛でながら韓国焼酎(ソジュ)を飲んでいたわたしが気になって仕方なかったのは、隣のオジサングループのテーブルに置いてある、謎の魚の尻尾のようなものです。

各辺30センチほどの正三角に近い形で、皮はグレーで身は白く、ねっとりとした佇まいで、どうやら蒸し物のように見えます。いかにも脂がのっていて美味しそうだけど、試しに頼むには大きすぎるサイズ。向かい側に座っている夫に視線を移すと、やはり隣のテーブルのその料理が気になって仕方がない様子で、じっと見つめた後、わたしの顔を見て言いました。「あれ、気になるよね」。

中年男性を唆すなら、夫よりもわたしのほうが向いている。「よし、久しぶりにビッチ(実際は物乞い)活動してみるわ!」と小声で夫に宣言し、お裾分けを狙って、「アニョハセヨー!(こんにちは)」と陽気に話しかけようとしたところで、とうにわたしたちの視線に気が付いていたのか、そのテーブルのオジサンのひとりが、謎の魚料理を小皿に取り分け、そして差し出してくれました。

「カムサハムニダ!(ありがとう!)」とありがたく受け取って食べたところ美味! 美味! 白身ながら脂は多く、そして身は柔らか。尋ねたところ、カオリという魚らしく、日本のアカエイと同じものらしいです。旅の醍醐味のひとつでもある「初めて食べる料理」を堪能することができて、普段はできる限り関わらないようにしている“オジサン”に久しぶりに好感を抱いたのでした。

ちょっと文字数が長くなってしまったので「オジサンと韓国とわたし」、次回に続きます!

Text/大泉りか