「妻は猫、夫は犬」と言う講師

そんな、いささか懐疑を感じている場所に、「欺瞞を暴く!」という確固たる意志ではなく「なんか面白いネタ、転がってるんじゃねーの?」っていうぬるい好奇心で足をつっこんでいくのは、もちろん悪趣味なことと存じていますが、自分とはまったく違った世界だからこそ、行ってみる価値もあるのです。

例えば、この日に講師が語った、夫婦関係の付き合い方のアドバイス。
妻は猫、夫は犬。だから言葉が通じないのは仕方がないこと。けれど犬は、棒を投げると喜んで拾ってきますよね、だから妻はどんどん棒を投げて、夫を働かせるんです。それが夫にとっては喜びなのです。ただし、棒を拾ってきたら、とにかく褒めることが必要です。犬は褒めれば褒めるほど、尻尾を振って期待に応えようとするんですから」。

わたしは犬と結婚したつもりはないので、まったく同調できませんでしたが、その会場にいる妻たちは、うんうんと頷いているし、その隣の夫も、ニコニコと微笑んでいる。犬呼ばわりされて嬉しいだなんてマゾなのか、それとも「夫婦円満のためには自分を一段低く置くことくらいなんのその」という上位者たるものの余裕なのか……。

もっとも“犬”というレトリックを使っているから少し目新しさがあるものの、この「夫を煽てて上手くコントロールする」テクニックは “家庭内キャバ嬢”や“夫育て”と言い換えられて広く知られてもいます。これを実践したい人はすればいいし、したくない人はしないでいい。胎内記憶うんぬんと違って、誰を傷つけるわけでもないですし。

わたしの場合は“妻と夫はフラットな立場にある”というのが理想なので実践しませんが、大切なのは、自分と違った考え方を持つ“うんうん頷く妻とニコニコ微笑む夫”を目のあたりにした場合、バカにすることなく、ただただ違った宗派の人たちがいるっていうことを、認識すること。それが世の中を知り視野を広げるっていうことではないかと思った次第です。

Text/大泉りか