TikTokの女の子を「ブスじゃね?」と言う金髪イケメンの気持ち

男友達

六月中旬の平日のことでした。久しぶりに渋谷まで出たわたしは、用事を済ませると、山手線に乗って家路につきました。

土地勘のない人には伝わりにくいと思うのですが、総武線沿いの住人からすると、渋谷は行くのが少しだけ億劫な街です。なぜならショッピングや映画といった、ほとんどの用事は沿線上にある新宿で事足りる。
だから、好きなバンドのライブだとか、どうしても観たい展示があるとか、渋谷でしかこなせない用事がないと、わざわざ一度、電車を乗り換えて渋谷には行かない。

電車に乗ってしまいさえすれば30分もかからずに着くので、「なに贅沢なことを言っているのだ」とも思うのですが、そういうわけであまり訪れることのない渋谷に久しぶりに足を運んで思ったのは、そこにいる人々が、新宿や中野にいる人たちとは、なんとなく雰囲気が違うということでした。

雑にまとめると「なんかオシャレ」な若者が多い。渋谷に慣れている人が中野に来ると、サブカルくさい格好の中年が多いと感じるのかもしれませんが、ちょうどその日、山手線に乗ったわたしの前の座席に座ったのも、いかにも渋谷っぽい「なんかオシャレ」な男の子の3人組でした。

「すげえブスじゃね?」と言う韓流男子

年の頃は20歳前後でしょうか。全員が韓流っぽい金髪に色白で細身、かわいい顔をしています。
「三人とも、めちゃくちゃモテそうだな」なんて思いながらも、あまりジロジロ見ては失礼なので、暇つぶしに本でも読もうとページを開きました。すると、わたしの目の前に座っていた彼が、スマホの画面を友人に見せながら言ったのです。

「ちょっと見てよ。これ、すげぇブスじゃね?」

穏やかとはいえない単語に、ついつい気になって彼らの会話に耳をそばだてました。どうやら彼はTikTokをやっていて、そこに「お友達になってください」とDMを送ってきた女性がブスだということを友人に伝えたいようでした。

「あー、ブスだね」「そこまでブスじゃなくない?」「いや、ブスだろこれ」とブスブス言っている彼らの心はともかく、顔はとても美しい。
多くの人々が半袖で汗をかいている晴天の中、なぜか中がボアになっているGジャンを着ているにも関わらず、汗もかかずに涼し気な顔をしている若くて綺麗な男子たち。彼らをを前にして「若さと美しさとは、なんと傲慢なことよ……」なんて年寄りくさい感想を抱きながら、再び本に目を落としたのでした。

歌舞伎町のラーメン屋でもホストが…

ところが、それから1週間ほど経ったある日のことでした。
ランチに入った歌舞伎町のラーメン屋で、注文した品が出てくるのを待っていたところ、カウンターの隣の席からまたも、「最近こいつからよく連絡が来るんだけど、すげぇブスじゃね?」という声が聞こえたのです。

デジャヴを覚えて横を見ると、いかにも歌舞伎町らしい、ホストっぽい雰囲気の綺麗な顔をした男性二人組がいて、そのうちの片方がスマホの画面をかざしているところでした。

「えー、そうかな。ちょっとぽっちゃりだけどブスではないんじゃん?」「ぽっちゃりはいいんだよ。これくらいのほうが俺は好きだから。でも顔はブスじゃね?」とこれまたブスブスと盛り上がっているふたりを見て思いました。

お前らブスブス言って、いったい何が楽しいのだ……。いや、きっと楽しいのだろう。でも何が……と考えた末に行きついたのは、彼らは「ブス」とくさしている女性たちからモテていることが、実は嬉しいのではないかということです。