義実家でもお客様気分

わたしはというと、正月の義実家でもいまだにお客様気分を貫いています。幸いなことに義母から「台所を手伝って」と言われることもないし、義姉もいるので台所の女手は足りている、と都合よく解釈して、夫とともに居間に座ってテレビを観ながらひたすらに酒を飲んでいます。

しかし、あくせくと働いている人がいるのに、どっしりと腰を下ろしたままというのも、まったく気まずくないわけではありません。ここでわたしはいつも引き裂かれます。良き嫁を演じたいわけではなく、大人として最低限の自分の始末はすべきではないか。その心の迷いがわたしの行動をブレさせる。

「あの~、なにかお手伝いしましょうか?」などと申し出るものの、台所のどこに何があるかを把握していない人に手伝いを頼むのってなかなか難しいんですよね。「うーん、そうねぇ……じゃあグラス用意して」と、一応は、義母もお手伝いを任命してくれますが、だいたいが簡単なものなので、すぐに済んでしまって再び手持無沙汰に。

何度も指示を伺うのも微妙だし、ちょっとは手伝ったから、一応の面目も立った。そもそも、手伝ってほしければ、言ってくるに違いない、と判断してまた居間にリターンして酒にダイブするという、なんともあやふやな過ごし方をしています。

「我が家の味を教えるから手伝って」

といっても、最初からこういう形だったわけではありません。あれは夫と結婚して、初めての正月。これまで通りにお客様気分で過ごしていたところ、義理母に「我が家の味を教えるから手伝ってくれる?」と台所に呼ばれました。

「おっ! ついに嫁扱いか?」

これまでは優しい義母であったけれど、嫁となるとモードが変わるのだろうかと、戦々恐々として台所に入ったわたしを待ち構えていたのは小麦粉とウスターソースでした。

「これはまさか……もんじゃの材料!」

墨田区出身の夫のソウルフードといえば、もんじゃ焼きです。同じ東京でもイーストサイド出身のわたしは、お好み焼き屋さんのメニューにあったとしても、自発的には頼みません。が、夫は友人を呼んで家で飲みとなると、すぐに「もんじゃしよう!」となるし、義実家に寄ったときも、かなりの確率で「今夜、もんじゃにしてよ!」とリクエストしている。そして正月でも関係なしにもんじゃをリクエストしたらしい今夜。

こうして、嫁として、義母からもんじゃの作り方を学ぶことになったのですが、それがワンダークッキングでした。

「大きいお鍋に水を汲んで、えっと……ウスターソースをとりあえず1本ぶち込んで味見して、薄いようならさらに調整して、そこに小麦粉を入れて、ちょこっと鉄板に垂らして固まるかどうか、見てね」

なんとラフすぎるレシピ。コツも何もあったものではない。お義母さんも、どうも教え甲斐がなかったようで、以来、台所に入れと言われることはなくなりました。

そういえば、夫と暮らし始めて訪れた一番の変化が「正月、実家に顔を出すようになった」だとすれば、二番目は「何かの折ごとにもんじゃを食べるようになった」ことかもしれません。他人と結びつくということは、自分の生活に、思いもよらぬ変化を持たらすことは面白い。けれど、いまだにわたしは、もんじゃよりもお好み焼き派です。

Text/大泉りか

次回は<10年前の正月、元恋人とステーキでケンカしていた…ミクシィ日記でわかる恋の相性>です。
懐かしのミクシィ日記を開いたら、10年前に同棲していた元恋人との日々が書かれていたという大泉さん。正月に喧嘩をしたという日記の中に垣間見える相性の悪さを振り返って、10年ともに暮らすパートナーとの相性を再確認します。