思い出に残らない初体験の相手
過去、わたしと身体を重ね、そして通りすぎていったすべての男性が、いま幸せに生きていることを願えるほど、わたしは出来た人間ではありません。もちろん、時折思い出して、空を見上げ幸せを祈るような相手もいますが、逆に、思い出したくもないのにふっと記憶に蘇ってきて「地獄の底で喘いでいるといい」と思わず恨み節を口走ってしまうような相手もいます。
それから、ほぼ忘れ去っている人もいます。「そういえば、そんな人いたなぁ」という程度で、フルネームもすぐには思い出せない昔の恋人。幸か不幸か、初体験の相手がそうです。
彼とは、付き合って2週間で初体験を済ませた後、そこから一度も会わずに別れてしまったので、十分に好きになる時間もなければ、激しく憎む時間もありませんでした。初体験が大切な想い出になっていないのは少し寂しいけれど、後悔せずに済んでいるだけよかったと思っていました……そう、「思っていました」。
初体験の相手から恋愛相談
過去系になったのは、30歳手前頃になって、その彼への印象が突然変わったことが原因です。高校1年の夏の終わり以来、まったく連絡を取っていない彼が、どうやってわたしのペンネームを探し当てたのかまったくの謎ですが、ある日、SNSを通じてメッセージが届いたのです。
彼からのメッセージの主な内容は、恋愛相談でした。十数年ぶりに元カノをSNSで見つけて、なぜ恋愛相談を送ろうと思い至ったのか、これもよくわかりません。わたしの職業を知ってのことかもしれませんし(こういう仕事をしていると、ひそかな性愛の悩みを語ってくれる人は少なくないのです)、もしかして、まだそこそこモテるということをわたしに知らしめたかったのかもしれない。誰かに話したいけれど、周りには適材がおらず、彼の奥さんにはバレようがない立場であるわたしに、白羽の矢が立ったのかもしれません。
そう、某有名大学の付属高に通う内部生だった彼は、わたしと別れた後、順風満帆な人生を歩み、すでに妻も子供もいる立場でした。「なるほど、彼の悩みの種は、秘密の恋か、はたまた不倫の悩みか……」と思いきや、どうも少し違いました。
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