初めて「ブス」と言われた日

ところでわたしは、人生で初めて男性に「ブス」と言われた日のことをはっきりと覚えています。

あれは幼稚園の年中か年長の頃でした。ある日、園庭に出ると、同じクラスの男児が、そこらにいる女児たちに、スカートめくりテロを起こしていたのです。めくられるのが嫌だったわたしは、隣にいた女の子のスカートがめくられた瞬間、慌てて自分のプリーツスカートの裾を押さえて防御の体勢を取りました。すると、そのテロリストが言ったのです。

「なに押さえてんのー! ブスのスカートなんかめくるかよー!」

まだ4~5歳だったわたしは、それまで自分が「ブス」とそしられる存在であるとは夢にも思っていなかったので、驚きました。そして、なんだかおかしいと思いました。その“おかしさ”が何なのかはわかりませんでしたが、その男子の言葉に傷つく必要がないとも思いました。

その時わからなかった“おかしさ”が何なのかを理解したのは、ようやく大人になってからでした。男が怒りながら「ブス」と陰口を叩く女性は、だいたいいつも「自分にとって都合の悪い女」「自分の怒りをかき立てる女」であると知ったのです。

スカートめくり野郎は、わたしの顔の作りに対して、「ブス」と言ったわけではなく、わたしの態度、つまりスカートがめくられるのを拒否したことが面白くなくて、ちっぽけな自分のプライドを守るために「ブス」という言葉を投げつけた。そのことを知ってからは、男性の言葉に傷つくことが減りました。

大人になってからは、いくらわたしが相手に都合の悪い態度をとっても、さすがに面と向かって「ブス」と言ってくる男性はいません。が、「可愛くないなぁ」「うるさいなぁ」と言われることは、たまにあります。けれど、その言葉を言われるたびに思うのです。「ああ、この人、いま痛いところを突かれてるんだわ」と。

Text/大泉りか
記事初出:2018.07.07

次回は<不倫もエアコンのONOFFも「正義」はたった1つではないから>です。
正義の反対は、また別の正義……というゲームキャラの名言がありますが、それは不倫問題も同じ、そして「エアコン問題」も同じ!彼氏との同棲がうまくいく大事な要因は、案外こういう小さなことなのかもしれません。