連絡なしで行く彼の実家

実家に行く日は、青天ではあったものの台風が近づいていて、とても風が強い日でした。「うちの実家にも犬がいるし、みんな犬が大好きだから!」と言われて飼い犬とともに、彼の家へと向かうことになりました。

しかし、道中に衝撃の事実が発覚しました。なんと彼は、実家に何も連絡をしていなかったのです。

「えっ!ちょっと待て!すぐに連絡してよ!準備だってあるでしょ!」
と慌てて言うと、
「うちの実家、いつもわりと片付いてるから大丈夫」
と相手にしてくれません。

いやいやいや、そういうわけにはいかない。高校生の男のコが同級生の彼女を家に連れていくならともかく、わたしも彼もとうに30歳をまわったいい大人です。慌てて電話を掛けてもらって「彼女も一緒だから」と言ってもらったものの、非常識な女が来る、と思われたのではないかと、どよんと心が曇りました。

初訪問、初宿泊

しかし、その心配は杞憂でした。義実家の人たちはみな気さくでいい人で、いきなり家に来ることになった、社会人としては髪の毛が茶色すぎる見ず知らずの女を、快く受け入れてくれました。犬好きというのも本当で、犬を中心にして会話が弾み、「連れてきて良かった」と、飼い犬に心から感謝する気持ちでした。

ところが、お茶を飲んでひとしきり世間話を終えた後、「ねぇ、晩御飯どうする? 今日は、このまま泊まっていったら?」と彼のお母さまが言い出したのです。義姉さんも「そうよ、そうよ」とそれに賛同。「えー、どうする?(チラッ)」とわたしの顔を伺う彼も、俄然泊まっていきたそうな雰囲気です。

ここで頑なに断ると、空気が読めないみたいですが、一方で、「じゃあ、いいですか~?」って言うのも、さすがに厚かましいし、そもそも、メイク道具だとか着替えだとか、なんにも泊まる準備をしていない。

電車で帰れる場所ならば、「じゃあ、わたしだけ、適当なタイミングでお暇しますね」なんてことも出来るのですが、あいにく彼の義実家は、関東某県に引っ越していて、湘南の家まで戻るのは、バスと電車を乗り継いで軽く半日はかかる場所にあるのです。おまけに台風が近づいてきて、ますます風は強くなり、軽自動車を運転して都内に戻ることすらちょっと厳しそうな状況に。

こうして、仕方なく「泊まっていきなさいよ!」の言葉に甘えることになりました。初めてお邪魔した彼の家に、そのまま泊まる状況、なかなかです。でも遠くて帰れる距離じゃないし、台風だし……といくつもの言い訳で自分を納得させて、晩御飯の時間になりました。