傷つきながらも「なぶり責める」メンタルで…

 その手紙を目にした時に思ったのは「知らない人が書いたみたい」ということです。

 そこに書いてあったのは、熱烈なラブコールでもエロい誘いでもなく、たんなる日常の報告と相手の精神と体調とを思いやる言葉でしたが、だからこそ、恋人はわたしの知らない日々を生きていたことがあからさまに表れていて、ショックを受けました。

 付き合いも長かったし、一緒に住んでいるくらいなので、恋人のことはよく知っていると思っていたけれど、その手紙に書かれている見慣れた字が、まったく違う人が書いたもののように見えました。と同時に、彼と住んでいる家の中にあるすべてのものが、途端によそよそしく感じられました。

 自分が見てきたもの、信じてきたこと、当たり前だと思っていた生活は、いったいなんだったのか――と傷つきつつも、一方では「なにこれ、ウケる!」という気持ちもあり、「読まないで欲しいんだけど」と逆ギレをかまそうとする恋人に向かい、「わたしだって読みたくて読んだわけじゃないんだけどねぇ」と厭味ったらしく返してすぐさま道を塞ぎ、じわじわとなぶり責めるくらいの性格の悪さがあったことは、わたしの救いだったと思っています。

 前書きが長くなってしまいましたが、そんなことを思い出したのは、先日、試写会で『ガール・オン・ザ・トレイン』という映画を見させていただいたからです。サスペンスなので、極力ネタバレはしないように書くように務めますが、あらすじは以下。

 愛する夫と離婚したレイチェルは、心に追った傷を癒すことが出来ずに酒まみれの荒れた生活を送りながらも、通勤電車の窓から見える、見ず知らずの「理想の夫婦」の姿に、別れた夫との幸せだった日々を重ねていた。

 そんなある朝、通勤電車の窓からレイチェルは「理想の夫婦」の妻の不倫現場を目撃する。やがて、その女性は間もなく死体となって発見。唯一の目撃者として、レイチェルに周囲から疑惑の目が向けられることになる――。

 ポーラ・ホーキンス氏による同名ベストセラーを原作とする本作には、3人の女性が登場します。夫の不倫によって離婚に至り、傷ついたレイチェル。レイチェルが「理想の夫婦」とするカップルの妻のミーガン、レイチェルの夫トムを略奪愛したアナ。

 レイチェルからすると、ミーガンもアナも、自分の手からは逃げて行ってしまった幸せを、しっかりとつかんでいるように見えます。けれども、実際にはミーガンもアナも問題を抱えています。しかし、その問題というのは、外からは見えない。