セックスレスという状況が引き起こした結末
セックスレスは自分にはまったく関係のない話だと思っていた。が、かつて一度だけセックスレスになったことがあった。
相手は5年くらい付き合って同棲までしていた人だったが、いくら必死に考えても、セックスレスになったキッカケは思い出せない。ある時から、突然、「今日は気が乗らない」「忙しくて時間がない」とセックスを断られるようになり、その頻度が増していき、ついには一切、抱いてもらえない、という状況になっていた。
ある時、「俺が一番性欲を覚えるのは朝だが、朝に君はいつも寝ている」と言われたことがあった。わたしは朝方まで仕事をして昼前に起きるという生活だったけれど、世の中の人からすると昼前に起きるというのは、遅いということになっているので、確かに「わたしが悪い」と思った。
けれどセックスのために早起きをする、というのも馬鹿げている。そもそも滾る性欲がないとセックスが出来ない、というのはカップルとしてどうなんだろうか。もっと優しく慈しむような営みがあってもいいのではないか。そういうことをわたしは伝えたかったが、しかし彼はそういう話をすることを嫌がった。
いま思えば、セックスが出来ない原因が自分にあるとわかっていて、それを責められるのが嫌だったんだと思う。わたしは「責めたい」のではなく、「話し合いたい」だけだったのだけれども、それをわかってもらえなかった。
シクシクと泣いたりブチ切れて喚いたりしているうちに、だんだんとわたしの中の諦めの気持ちが強くなってきた。官能小説という「人がセックスをする小説」を毎日書いているのに、実際はセックスが出来ずにオナニーで耐えている自分が可哀想だと思っていた。そして、ある日、「もう、仕方がない」と見切りをつけてセックスをアウトソーシングすることにした。
案の定、セックスから関係が始まった、とある人のことが好きになって、同棲相手に別れ話を切り出した。今度は彼のほうが泣いたり喚き散らしたりして大変だったけれど、半年ほどかけてようやくわたしを諦めてくれた。
彼は別れる寸前に「実はずっとうつ病で病院に掛かっていた。そのせいで性欲もなかった」とわたしに言った。彼がうつを患っていたとは、まったく気が付かなかった。けれど、もうすべてが遅かった。
性欲のない状態の男性にとって、女性を抱きしめることは、そんなに難しいことだったんだろうか、と今でもたまに考える。
…次回は《夫が「風俗に行くこと」を理解する妻の複雑な気持ち》をお届けします。
Text/大泉りか