今週からは「おうちデート編」。自分の部屋、彼氏の部屋など、プライベートな密室で起きた恋愛怨霊メモリーを募集しております。
僕が初めて一人暮らしをしたのはアパートとかではなく、一軒家でした。それも街から10分ほど急な山道を登ったところにある、山小屋のような小さなあばら家。
当然、めったに客は来ませんでした。近くにコンビニなどあるはずもないので、夜は基本的に自炊。都会では見たこともない奇妙な虫が次々出てくる台所で安い酒を飲みながら、練習がてら料理をつくって過ごすのが夜の日常でした。
ある夜中、退屈しのぎににんじんのポタージュを大量につくっていると、当時の彼女から電話が。かなりいらだっているようでした。理由は忘れましたが、たぶん僕が浮気をしたとかだったんでしょう。彼女は怒りを抑えつつ「話し合いをしたいから山を降りてきてくれ」と僕に告げました。
「ごめん、いま料理中で家を出られない」といったんは断りました。もちろん、自分が不利になる状況から少しの間だけでも逃げていたかったからです。
「じゃあ今からそっちに行く」と彼女。先延ばしは難しそうでした。僕は観念し、すぐ訪れるであろう修羅場を覚悟しながらポタージュを漉し続けました。
1時間ほどして、彼女が到着。僕への怒りのせいか、真っ暗な山道を迷いながら歩いてきたせいか、息が上がっていました。話し合いなんてとうていできないぐらいに。
彼女を座らせ、落ち着くのを待ちました。特に考えもなく、大量につくってしまったポタージュをコーヒーカップに注ぎ、渡しました。
「おいしい……」
適当につくったスープは奇跡のバランスだったようで、どうやら彼女の出鼻をくじいてしまったようでした。もしかしたら許してもらえるのかも、と少しだけ期待しましたが、もちろんそんなにうまくいくはずもなく、すぐに持ち直した彼女は、
「こんなおいしいものを突然出されて、何から言い始めていいかわからなくなったじゃない!」と怒り始めました。「そういうところがイラつくのよ!」とも。
そんなわけで、僕の脳内に棲まう怨霊からは、今でもほんのりとにんじんポタージュの匂いがします。
あれから15年も経つのに、女の子を怒らせるたびに、意識の下に少しだけポタージュを漉す映像が再生されてるし。なんとなくあれ以来にんじんのポタージュをまったくつくってないし。
さて、そんな僕の怨霊メモリーを超える怨霊に満ちたエピソードが、今回も集まっております。ではご紹介。