少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。
そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。
時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。
むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり?
この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。
第1回:流される王子『失恋ショコラティエ』
『失恋ショコラティエ』がわたしたちに与えてくれる潤い感は、まるでSK-Ⅱのようだなと思う今日この頃。
マンガ版、ドラマ版の両方をチェックしているところなのですが、エロいわ切ないわ大変な騒ぎですよ。
キュンとしたりジュンとしたりしているうちに、小じわが消え、シミが薄くなりそうな勢いとでもいいましょうか……少女マンガの世界は作り事だと分かっていても、心と体が反応してしまう上質のフィクションです。
本作の特徴は、なんと言っても「男が主人公の少女マンガ」だということ。
チョコレートをこよなく愛する「サエコさん」に恋してしまった主人公「爽太」がプロのショコラティエになるお話なのですが、これって少女マンガでよくある「好きな人のために努力する主人公」の男女反転バージョンですよね。
あの人のことが大好きだけれど、そのままの自分には魅力も取り柄もないから、何かひとつ目標を定めて努力する。
そんな自分の成長っぷりをあの人から認めてもらえれば、晴れてカップルが成立しハッピーエンド! という少女マンガ的展開については、みなさんもよくご存じのハズ。
しかし『失恋ショコラティエ』のストーリーは、努力→成長→愛情ゲットという少女マンガ的「王道」からどんどん外れて行きます。
なぜなら、サエコさんは、平気で二股をかけたり、男を取り替えまくったり、気づいた時には人妻になっていたりと、フリー期間が全くない女だから。
他の人との恋愛で忙しく、爽太のことがちゃんと見えていないんです。
それなのに一途な爽太を翻弄するので、見ていてほんとにムカつきますが(笑)、爽太は彼女の計算高さみたいなものをぜーんぶ分かった上で「でも好き!」だといい続けます。
つまり『失恋ショコラティエ』とは、努力の報われる可能性がめちゃくちゃ低いところでがんばり続ける男の物語であり、悪い女を愛する男の物語でもあるのです。
彼女の全てを愛し、彼女のために職業も選んじゃう……ありえないほど受け身な爽太ですが、そんなに卑屈じゃないし、ストーカーっぽくもない。
それがこの作品の面白いところであり、不思議なところでもあります。
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