
2014年、『ビッチ』という映画を携えていた
2014年、あたしは初めて企画・監督した映画『ビッチ」を携えて広いエンタメの世界で立ち尽くしていたんだ。現代日本女性の性の実態を追いかけるというドキュメンタリー映画。当時まだ30になったばかりだったあたしは「なんで女が下ネタ喋っちゃいけないんですかッ」「なんで女が主体的に性を謳歌してはいけないのですかッ」といった怒りを原動力とした創作活動に燃えていたんだよね。テレビという窮屈な世界で働くあたしはまだ若くて、自分の思いが発露できない環境に鬱々としていたんだ。
そんなあたしに声をかけてくれたのがアムだったね。映画の原案の湯山玲子さん、女性向け動画サイト運営の田口桃子さんと私の対談イベントを企画して、そのレポートを記事にしてくれたんだ。セックスだとかオナニーだとか大人のおもちゃだとか、あんなに堂々と楽しく話せる場を作ってくれたのはアムが初めてだったよ。「女性のあらゆる生き方を肯定するコンテンツを作りたい」。まるで女性の性の解放運動を扇動するような気持ちでいたあたしにとってAMは懐の大きい戦友のような存在だった。
次々と公開される記事は、あたしがいつも思っていることを言語化してくれたり、悩んでいることにヒントをくれたり。ほんと、バカみたいに面白い記事がたくさんあったよね!挙げ句、「恋愛メディアがひろってくれない 童貞の疑問を解決する本」って何なんだよ!笑 ひどい内容だったよ、それを読んでゲラゲラ笑っていたあたしも相当ひどい女だったよ、今にして思えばね。懐かしいな。
いろんな仲間
そしていろんな仲間と出会わせてくれたよね。アムには本当におもしれー女たちがたくさん集まっていたんだ。あたしが仕事人として一番多感な時期に影響を与えてくれた人たちだと思う。アムで出会って一緒に仕事をしたり、飲み友達になった人もたくさんいる。今でもその関係は続いているよ。ライター一覧を見ると、慣れ親しんだお名前ばかりが並んでいるよ。その一番最初に雨宮まみさんのお名前があるのに今気付いたよ。嬉しいね、寂しいね。
時代が変わった今
時代が変わって、もうあたしたちの戦いの歴史なんて過去の話。あたしたちがあんなに興奮して語り合ったマッチングアプリも女性用風俗も、今ではオフィスで若い女の子たちがさらりと話題にしているよ。当時はそれを堂々と語れる自分が斬新でカッコいいと思っていたのにね。女の子が性の話をおおっぴらにすることなんて全然もう、普通のことになったみたい。そして何より、あたし自身があんまり恋愛の話をしなくなった。仕事とか生活とか、老いとか社会とか。考えることが増えた。
でもね、アム。
時代がどんなに変わって女の子を取り巻く性の環境が先進的なものになったとしても、全ての時代の全ての女の子にとってあらゆる「はじめて」は平等に訪れるんだよね。初恋、初潮、初体験。進学、就職、結婚、出産、加齢。あたしたちがとっくにクリアして平気になっちゃった人生のクエストにこれから挑戦する女の子たちがいる。その痛みや葛藤を乗り越える時、彼女たちの「アム」が生まれてくるはずなんだ。同世代の悩める女の子たちがまたそこに集まって、何かを書いて、読んで、支え合って、強くなって生きていくんだね。テレビ業界で働くあたしの元にもたくさんの若い女の子たちが「好きな男の本命になれなくて悩む主人公の話」「結婚と仕事の間で揺れ動く女たちの話」みたいなドラマの企画書を真剣な目をして出してくるよ。彼女たちも今はまだひとりで戦っている気分かもしれないけれど、きっとアムみたいな場で戦友と呼べる人達に出会うんだろう。そうなることをあたしは祈ってる。
最後に、金井編集長。あなたほど物腰が柔らかく大胆で知的で、ぶっとんだ頭の女を私は知らない。私にとってアムとは、あなたのことでした。
Text/祖父江里奈