「恋愛上級者向け」の意味するところ

さらにもう一箇所、訳者あとがきから印象的だったところを抜き出してみる。「人を恋する気持ちというのは、けっこう長持ちするものである」と村上春樹は書いていて、これには私も感覚的に同意できた。ぱっと見だと、恋とは一時的なもので、長続きしないんじゃないの? と思うかもしれない。でも、たとえそれが一晩で過ぎ去ってしまうような恋だったとしても、そのときの高揚感、やけくそな気持ち、どうしようもない苦み、そういうものは十年後も二十年後も残ってしっかり覚えていたりする。

『恋しくて Ten Selected Love Stories』にある10の恋愛小説は、村上春樹いわく「上級者向け」のものが多いようである。しかしその「上級」の意味するところとは、恋愛の実践経験のあるなしとはたぶんちょっと違う。もっと、人生の苦みに目を向けられているかとか、ある出来事に対して多様な解釈ができるかとか、そういう意味での「上級」だ。だから、ある程度年齢を重ねていれば、私のような非モテの陰キャでもすっとわかるものが多い(と思う)。

恋愛小説って、恋愛の最中にいる人だけが読むものではないらしい。そう気づかせてくれる短編集、クリスマス付近のこの時期に読むと、けっこうぐっと来そうなのでおすすめです。

Text/チェコ好き(和田真里奈)