他に女がいて、優しく余裕があり、なぜかヒゲが生えてる男たちにさようなら

優しい男が好き。そういう女は多いだろう。
私も優しくない男と優しい男とだったら、絶対に前者よりも後者のほうを選びたい。
ところが男の優しさっていうのは結構ずるくて、ときに女はそれに振り回されかねない。私は優しすぎる男と出会ってから、苦手になった。

今年の夏にマッチングアプリで出会った男はすごく優しかった。
一軒目のあとは必ず「どうしたい?」と聞いてくる。「帰りたい? 遊びたい?」と選択肢を与えてくれる。
飯屋で私が食べ切れなくて苦しくなって箸が止まると、「食えなかったら残していいんだよ、金払ってんだから」と味方になってくれて安心した。
フジロックにも一緒に行ったのだが(さすがに2人ではないけれど)、私がタバコを切らすと喫煙所に行くたび何も言わずともタバコを一本差し出してくれた。テント泊だったのだが、テントでのんびりしているときに彼だけがどこかへ出かける際は「これ吸っていいから」と箱ごとタバコを置いてってくれたりもした。
初めてのフジロックで特別音楽が好きなわけでもない私はどう過ごしたらいいか何もわからず困り果てて一人でテントの中で寝たきりになっていると、朝から深夜までつきっきりで色んな所に案内してくれた。

「こいつ、優しいな」
ふと相手の優しさに気付いてから恋に落ちるまではそう時間がかからなかった。
フジロックから東京へ戻ったあとはいつも以上になんだか情を感じたものである。
家にお邪魔してクーラーが少し寒くてまくっていた袖をもとに戻すと「寒い?」と言って温度を少し調節してくれたし、着替えのパンツがないことくらいへっちゃらだがわざわざ夜過ごす用にメンズパンツを出してくれたり、私を風呂に入らせるためだけに湯を張ってくれたりとなんだか手厚かった。

大体いつも23時くらいに「ひま?」と連絡が来るのだけれど、一度深夜の2時に来たことが会ってさすがに無理だと返すと「仕事終わりで車だから家まで迎えに行こうか」と言われて、家の前まで来てくれたこともあった。
その翌日はお互い休みだったこともあり、車で葉山まで行ったりもした。
酒が好きすぎていつも飲んでしまうおかげで、車を持っていても乗ることがほとんどないと言う。その酒を我慢してまで車でわざわざ連れてってくれるのだからなんて優しい男なんだろう。
遊びじゃなくて付き合いたいと思うようになっていった。

関係が変わったタイミング

ところがある日のこと。フジロック以降毎週誘ってくれていたが、私が実家の用事で帰っていたため断らなければいけないときがあった。その日を境に私から誘い直しても「仕事っす」とだけ返されて、連絡もぱったりと途絶えた。
久しぶりにマッチングアプリを開くと登録し直したと思わしき彼のプロフィール画面が出てきた。ああ、登録し直したんだくらいにしか思わなかったが、今思えば私が実家にいて会えなかったのが悪い方にころんだタイミングだったのかもしれない。

彼の友達とも私は仲良くて、ある日飲みに誘われると彼もいた。場所は渋谷だ。
彼も私が来ることを知らされてなかったらしい。顔を見るのは葉山ぶりだった。
3人で久しぶりに飲んでいると、お友達の彼女も途中加わって朝までカラオケスナックで遊んだ。5時位になって店を出て、うどんを食って帰ろうかということになり、近くの店に行った。
するとお友達の彼女が私達の関係性について突っ込んできた。

「2人はどういう関係なの? ○○(彼)のことは好きなの?」
「まあ……好きだよ」
「じゃあ○○は? どうなの? ちゃんとしなよ、自分のこと大事に思ってくれる人がいることが当たり前だと思わないほうがいいよ」

地獄だ。なんとなく、学校で先生がやりがちな「××ちゃんの下駄箱に悪戯をした人は誰ですか? 怒らないから手を挙げなさい」のやつを私は思い出した。そんなことを言って誰が馬鹿真面目に手を挙げるんだっつーの。そんなテンションでこのときも私は「○○がそんなこと言われて『じゃあ付き合おう』って言うわけねーだろ」と思っていた。彼は終始黙ってうつむいていた。
その後無事解散して、私はいつも通り彼の家まで一緒に歩いていたのだけれど突然何を思ったのか彼は私を冷静にさせるようなことを口走る。

「ゆみこ(私)はちゃんとした人と付き合ったほうがいいよ」

典型的な男のお断り常套句じゃないか! ついカッとなって私は「そういうことか」と言い残してぐるっと正反対を向いて、渋谷駅へ歩いて家まで帰った。