恋人との別れは怖いものではない。「一生大好き」と「無理なら別れよう」は共存できる

恋人と別れるのが怖い?

by Sara Rolin

「あなたたち本当に良いカップルだね!別れないでね!」と言われることがある。「え、 なんで? 別れたいと思ったら別れるよ」と言うと、「そんなこと言わないでよー! 縁起でもない!」などと責められたりする。なにそれ、お年寄りが「わたしゃもう老い先短いから……」と言ったときの返しみたいだ。カップルに「別れないで」とか、老人に「死なないで」とか、そんな無茶なこと言っても仕方ないと思う。

『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』(若林理砂著、ミシマ社)という本を読んだ。どう生きようが人間は100%の確率で死ぬわけだが、あまりに死を恐れすぎて、健康法をあれこれ試し、かえって不健康になる人も多くいる。それよりも、普通の生活をしっかり続けていればそこそこ健康に寿命を全うできる、と提案する東洋医学の本だ。なんだかカップルにも当てはまりそうだ。たとえば別れを恐れるあまり相手に親切にしすぎてフラれたり、関係をこじらせたりする人は私のまわりにもいる。

死ぬときは死ぬという前提で、生きられるところまでそこそこ楽しく生きる、というのが「健康」のめざすところだとしたら、別れるときは別れるという前提で、付き合えるところまでそこそこ楽しく付き合う、というのが、「健全なカップル」というものではないだろうか。恋人との別れは、怖いものでも縁起の悪いものでもない。無理なときは仕方ない。意外とそういう前提でいたほうが、気が楽になるかもしれない。

私の母は昔からよく働く人だった。お母さんは働くのが好きなのだろう、と思っていたが、あるとき彼女から「お父さんといつ別れても大丈夫なように働いてるのよ」と聞き、びっくりした。「え、別れるの?」と尋ねると「特に予定はないけど、もし別れた方がいいとなったら、私も生活費くらいは稼いでるから、すぐに別れられるのよ」とのことだった。振り返れば教育やしつけに全く関心のない親ではあったが、「何かしら働きなさい」ということだけは言われてきた。自立すれば、自由でいられる。自由でいられれば、人と健全な関係を築きやすい。そういう教えだったのだと思う。

恋愛は何が起こるか分からない。今日大好きで、死ぬまで一緒にいたいと思ったあの人のことを、翌朝には大嫌いになっているかもしれない。悲しいようにも思えるが、だからこそ、今好きな人を全力で愛し、一方で、もしも別れたいと思ったらすぐに別れられる状態にしておくことが重要だと思っている。「一生大好き」という祈りと「無理なら別れよう」という備えは共存できるものだ。