別れ話の切り出し方

ところで私は別れ話がとても苦手だった。「もう潮時かな」とお互い思っている場合はスムーズだが、相手が自分と「まだ付き合いたい」と思ってくれている場合に別れを切り出すのが難しい。10代のころ、「話がある」と恋人を呼び出したものの、何と理由を説明したらいいか分からず、公園で数時間にわたって押し黙ったことがある。最終的に相手に「……別れたいんだね……」と言わせてしまった。

その彼と同窓会で10年ぶりくらいに再会したとき、「ねえ、あのとき別れたくなった理由って何だったの?」と聞かれた。当時私が説明しなかったので、ずっと気になっていたらしい。「なんだったかな、忘れちゃった」と答えたが、もちろん理由は覚えている。彼と遊ぶのに飽きたのだ。でもこれはさすがに正直に言えなかった。

ずっとこの彼に申し訳なさを感じていたのだが、最近、「でも、別れたい理由って言う必要ないんじゃない?」と思うようになった。たしかに理由を言われないとモヤモヤするので、最後の親切として、何か納得しやすい理由を言ってあげてもいいだろう。でも、絶対に言わなくてはいけない、というものではないように思う。「もう会いたくない」でも「理由は聞かないで」でも何でもいいだろう。

別れたい理由を言うと「その理由では納得できない」などと言う人がいる。知らんがな。夫婦の場合は離婚事由が法的に争われることもあるだろうが、ただ口約束で付き合っているカップルが別れるのに納得も何もないのではないか。片方が別れたいと言ったら、別れざるをえない。相思相愛でしか成り立たない関係上、仕方がない。最低限の誠意を持って、自然消滅ではなく、別れたい旨をしっかり伝えられれば、満点ではないか。

というわけで、理由を正直に伝える義務はないと考えるようになって、別れ話をしやすくなった。無理に付き合っていてもお互いに疲れるだけなので、軽やかに付き合い、軽やかに別れるようにしていきたい。私は恋に落ちる瞬間よりも、断然、その人と別れる瞬間の方が好きだ。恋は事故で、別れは完治だと思うから。

潔く別れた恋愛は、我慢が最小限で済むので、後で美化されやすい。だから私は本当にたくさんの素敵な恋をしてきたかのように錯覚している。そしてまたうっかり素敵な事故にあうのだ。