いざ、2度目のデートへ

2度目に会ったのはあれから2ヶ月後だった。
彼が多忙を極めているのに加えて新型コロナに感染したということもあり、期間がだいぶ空いてしまったというわけだ。
前回は大崎とかいう何もない無の地だったが、今回は約束の地、和泉多摩川だ。歩いてすぐにあの大きな多摩川がある、あの和泉多摩川だ。
待ち合わせののち、彼は「ぜひ紹介したい」ということでお世話になっているらしいお店に私を連れていった。
「この方、イラストレーターのおゆみさんです」
店主に向かってそう言う彼。店主の頭の上に?マークが浮かんでいるのが見える。一瞬の間の後、挨拶を交わした。ちなみにこの“ご紹介”にはなんの深い意味もないことを私はよく知っている。勘違いをしてはいけない。
よくわからない時間を一瞬過ごした後、カフェでコーヒーをテイクアウト。そしてコーヒー片手に多摩川沿いの土手に腰を下ろし、二人で近況報告をしあった。

例のZINEを持ってきてくれた。表紙か何かをぜひいつか描いて欲しいのだと言う。お金はちゃんと払ってくれるらしい、善良な人だ。
ZINEを手に取り、ペラペラめくる。面白いか面白くないかは別として、一人できちんと取材なりデザインなり校正なりして作っているのだから偉い。素直に尊敬する。
彼は川を眺めながら今後のビジョンについて語り出した。今の仕事を辞めて、フリーになりたいのだという。ZINE作りにはおゆみさんも手伝ってくれたら嬉しい……
文字にするとなんだか青臭いが、そんな感じだ。

よかったら一口食べますか、とドライフルーツが入ったベーグルを私に渡そうとしたので私は「実はフルーツ全部食べれないんです」と断った。
彼は一瞬固まり、驚いた表情を見せる。
「びっくりしました、何にびっくりしたかって言うと、実は僕もフルーツダメなんです。こういうの(ドライフルーツ)なら平気なんですけど。
……僕たち、似てますね

僕たち、似てますね。僕たち、似てますね。僕たち、似てますね。似てますね。似てますね。似てますね。

おい! マジで恋する5秒前かよ!!
そんなこんなしているうちに日が沈み寒さで震え出した頃、どこかに入って温まってついでにお腹でも満たそうということになるも和泉多摩川にはあんまりお店がないので、2人で狛江まで歩くことにした。

「夜、どうしましょう。どっか入るか、あるいはスーパーで何か買ってぼくんちで食べるか、」

“ぼくんち”
取り乱しそうになる。

「あ、それいいですね」
「じゃあそうしましょう」
スーパーで何か買ってぼくんちで、のほうに反応したつもりだったのだが彼は違う方に私が返事をしたと思ったのか、行き先は飲み屋になった。
残念。
でも家に行ってしまったら何か台無しになってしまう気もした。時間をかけて相手との関係性を深めるのが理想だ。これでいい。
私は話の最中にチラッと横顔を見ながらふと「この人いいかもな」なんてことをふと思った。

健全に時間を過ごし、飯を食べ、そして何事もなく解散。
こんなに気持ちのいい1日はなかなかない気がする。
「今度ぼくんちに是非遊びに来てください」
ぼくんち!?(2)
やたら家に誘ってくる気がしたが、いや、彼はきっといい人である!
次は家に行こう。そしてあの夢がなんだったのか、確認をしよう……カラッカラに枯れきった女心に少し命が芽吹いた1日だった。
健全な恋が始まる予感がした。

2度目のデートを終えると

しかしなぜなのか。不思議なことにそれから彼の返信速度がどんどんと低下していった。
最初は1週間。次は2週間。次は丸々1ヶ月以上。
ていうかもはやこちらが連絡しないと向こうも返信などするつもりはサラサラなさそうであった。
2度目に会う約束をしたときも2週間遅れの返信だったが、そのときは「返信遅くてごめんなさい! でも、すごく気が合ったと思ってるので、挽回させてください!」と言われていた。挽回させてくださいとは一体なんだったのか。

まず誰かを好きになる→相手の反応を伺う→なんとなく相手も自分を好きそうだ→告白→晴れて交際!

この3番目を確認するべく3度目に会う約束に漕ぎ付けたかったが、結局それすらできないまま彼からLINEが来ることは一切無くなった。
ムカついたので私は「挽回させてくださいとか意味不明なこと言うのやめてください」と送ってブロックした。

散々遅いLINEに付き合って、引っ越し祝いまで貰い、なんかそれっぽい言葉を言われ、よくわからん行きつけの店の人に紹介され、「僕たち似てますね」、「ぼくんちに遊びに来てください」などと言われて、一体あれは何だったのだろう?
次に会うとき渡そうと思っていた引っ越し祝いのお返しの石の招き猫は悲しそうな表情を浮かべている。

男心も秋の空のようである。

知人の男性曰く…

結局あれはなんだったのかどうしても知りたくて、先日知人の男性に相談してみた。知人によるとこういうことらしい。
「男は常に複数人の女追っかけてどれか一人当たればいいって思ってるから、つまりそういうことじゃない? 男は振られるのが当たり前だから」
そういうものなんだろうか? 私だって振られるのが当たり前だった。
あの日家に行っていれば続きはあったかもしれないってことだろうか。でもそんなの愛じゃね〜。答えはまだ見つからない。

何も始まってもいないうちにただ終わった話を長々と読ませられた方には本当に申し訳ないことをしたと思いますが、答えがわかった人は是非InstagramのDMで私に送ってください。待ってます。

Text/oyumi