「モテなくても、人を好きになる才能ならあるかも!」という話を前回のコラム【大人は大人らしく、恋に狂い続ければいい。そのための2つの要素】で書いた。しかし、やっぱり、どうしても、モテたい。私が誰かを好きになって、狂っていくように、誰かも私を好きになって、狂えばいいのに、と思う。
ファッションやヘアスタイル、美容整形など、万人ウケの見た目になる手段はたくさんあるし、LINEの上手な返信だとかスキンシップの方法など、「モテテク」的なものも巷にあふれている。私もそれらに興味がないわけではなく、むしろこそこそ夜中に調査しては、モテコスメなるものをポチってみたり、デート中の小技を仕入れたりしているが、でもなんか、本当は、もっと、圧倒的にモテたいのだ。
男のすね毛を燃やした女の話
大学生の頃のゼミ合宿で、明け方げらげら笑いながら、先輩のすね毛にライターで火をつけた彼女の姿を今も忘れることができない。「ちょっと毛が濃いので燃やしましょう!」とかいう謎の理由で他人(しかも男の先輩)に着火する。ふつうに考えて失礼だし、というか暴力だし、訴えられたらたぶん法的にもアウト。燃やされた先輩は体格が良く、オラオラ系で、ちょっと怖い見た目。「ええっ、大丈夫なのかな?」と離れて見ていると、なんと、その先輩は大喜びだったのだ……!!「あはは、きれいになるチャンスだ。これを機に脱毛しようかな?」などと惚けていた。
数か月後、先輩と彼女が交際をはじめたというニュースが入り、我らのゼミに激震が走った。まぁ、もしかしたら私が知らないだけで、すね毛事件以前からふたりは仲睦まじかったのかもしれない。彼女もいくら奔放とはいえ、さすがに無差別テロ的に「たまたま目の前に生えてたすね毛」を燃やしたわけではなく、先輩からの好意や信頼に気づいていたのだとは思う。でも、それにしても、あの事件がふたりの関係性を燃え上がらせたのは間違いないだろう。
彼女はたしかに可愛い子ではあったが、美容に興味がありそうでもなく、モテテクなんて一文字も読んだことがなさそうだった。でも、すね毛先輩だけではなく、気づけばゼミ男子ほぼ全員が彼女のことを好きだった。他にミスコンに出たコンサバ女子や、スタイル抜群ギャルなどがいたにも関わらず。これぞ圧倒的なモテ。聞くところによれば、他の男子の毛も燃やしていたらしい。
彼女はなぜあんなにモテたのだろうか
すね毛事件があまりに衝撃的だったので、私はこの話をかなり多くの人にしてきたが、よく言われるのが、「その先輩はMだったのではないか」ということ。実は先輩は痛いことや恥ずかしいことをされることで性的に満足する人(マゾヒスト)だったから、自分のすね毛を燃やされて興奮し、彼女のことを好きになってしまった。先輩の性的嗜好は知らないが、有力な説に思える。
でも、と思い直す。あのころたしかに、ほとんど全員が、彼女のことを好きだったのだ。みんながみんな、Mだったのだろうか。なんとなく、Sっぽい人もいたような……。そんな疑問がわいてきたが、「いやぁ、男っていうのは、みんなMなんだよ」と言われた。そ、そうなのだろうか。
男がみんなMなのかは置いておくとして。「SはサービスのS」という言葉を聞いたことがある。良いサディストは、単に暴力をふるったり調教したりするわけではなく、相手の願望を先取りして叶えてあげるという「サービス」をしているのだ、という説である。たしかに、縄で縛っても、鞭で打っても、相手に怒られず、むしろめちゃくちゃ喜ばれるわけだから、Sの人は相手の願望を察知する能力がずば抜けているのだと思う。
きっと彼女も見抜いていたのだろう。今すね毛を焼いたら先輩に喜ばれるということを。暴力ではなく、むしろサービスの一環としての着火だったとしたら。やはり只者ではない。
奔放にふるまう女の子の多くがモテている。しかし、彼女たちのことを、何も考えず、何にもとらわれず、自由に楽しく生きている、と見るのは早計だと最近思う。相手の秘めたる願望を察知し、ギリギリ許される範囲を見抜き、鮮烈な体験をさせてあげる。実はサービスの天才なのかもしれない。
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