「多様性」とか「価値観」の話ではないのかも

というようなことを、私は(独身だけど)ここ2年くらいずっと考えていた。『やがて哀しき外国語』も、その一部に過ぎない。

で、2年間考えた末の、私の落とし所はどこかというと……思うに、不測の事態は慰謝料とか保険金とかでその場しのぎはできそうな気がするので、ようは「一度キャリアが途切れてしまうと再スタートするのが難しい」の部分を、私たちの社会はどうにかすべきなのだろう。

村上春樹の奥さんが村上春樹と離婚や死別をしたとしても、他の作家の編集者兼秘書の仕事がすぐ見つかるのであれば、そんなに問題はないのではないか。同様に、家事や育児に長く専念していた人が何らかのきっかけにより仕事をフルタイムで再開したいと思ったときも、最低時給に近いアルバイトだけではなく、もっといろいろな選択肢をスムーズに選べればいいのではないか。つまり、これって「夫婦のあり方」とか「多様性」とか「価値観」とかのふわっとした話ではなく、「なぜ労働市場において”ブランク”は許されないのか」とか、「正規雇用と非正規雇用を分ける正当性は」とかの、労働問題の話でもあるのではないか。

などと考えていたら、とてもじゃないがいつもの連載の字数に収まらなくなってしまった。『やがて哀しき外国語』の内容もだいぶ逸脱し、もはや書評とも呼べないものになっている(まあそれはいつもだけど)。そしてこの話題、もう少し続けたいので、異例の「次回に続く」を使わせてほしい! 次回は東畑開人さんの『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』を取り上げる。

それはそれとして、『やがて哀しき外国語』は村上春樹の、いつもの調子のエッセイだ。苦手な人にまで積極的に勧めたい本では決してない。だけどやっぱり、日本で生活しているだけでは思いつかない、様々な示唆を与えてくれる。さらさら読めるので、案外、今のような梅雨の時期に読むのに適しているかも。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

初の書籍化!

チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。