40歳を過ぎてなおかつ素敵な女性
3月生まれ・魚座の私は先日、無事に34歳を迎えた。31歳くらいまではまだ20代の延長線って感じがしていたものだけど、34歳ともなると身も心も「30代」がしっくりくる。そしてそうなってくると、かつて村上春樹が言っていた「40歳を過ぎてなおかつ素敵な女性は、ほんとうに素敵な女性だと僕は思っています」という言葉の意味について、いよいよ深く考えざるを得ない。まあ、この言葉は後半に「(女性が40歳より)若い時に素敵なのは、多くの場合若さの助けを借りているからです」と続くので、「女性の若さに勝手に価値を見出してたのはそっちだろ!」と、文句を言いたくなったりもするんだけど。
ではそんな村上春樹のいう「40歳を過ぎてなおかつ素敵な女性」とは、具体的には誰を指すのだろうか。例を1人あげると、小説家でありフェミニストであり政治活動家のグレイス・ペイリーのことは、間違いなく「40歳を過ぎてなおかつ素敵な女性」と思っているはずである。なぜなら、村上春樹は彼女の本を3冊分も翻訳しているからだ。
今回はそんなわけで、「40歳を過ぎてなおかつ素敵な女性」のヒントを探るため、このグレイス・ペイリーの短編集 『最後の瞬間のすごく大きな変化』 を読んでみることにしたい。
戦闘的な平和主義者であり、ものわかりのいいアナーキスト
『最後の瞬間のすごく大きな変化』 は村上春樹が最初に翻訳したグレイス・ペイリーの短編集で、ぜんぶで17の小説がおさめられている。ちなみにペイリー自身は、政治活動に忙しく、40年間でたった3冊の短編集しか出さなかったという寡作の人だ。「かなり戦闘的な平和主義者であり、ものわかりのいいアナーキスト」と自分の立場について説明しており、なんだかユーモアのある人である。
小説自体は、はっきりいうとそれほど読みやすくはない。話があっちこっちに飛ぶし、一度読んだだけだと「どういう意味?」と頭を抱えてしまうようなオチを持ってこられたりするので、村上春樹も翻訳するのに大変な苦労をしたと巻末の解説で述べている。だけどその「クセのある感じ」が病みつきになるのも、ちょっとわかる。
『最後の瞬間のすごく大きな変化』 で私がいちばん好きな短編をあげるとするなら、『ノースイースト・プレイグラウンド』だろうか。この物語には、生活保護を受けている11人の未婚の母が登場する。11人の女性が未婚である事情は様々だ。
彼女たちは子供を公園の砂場で遊ばせているが、他の母親たちと関わろうとしないので、見かねた主人公が「他の母親たちとも交流しないと孤立化してしまうわよ」とアドバイスする。でも、未婚の母たちはそんな主人公にきっぱり「ノー」を告げるのだ。と、あらすじを書いてしまうとすごく味気ないのだけど、主人公が「ノー」を告げられるまでの文章が複雑かつユーモアに溢れていて、さらに「社会において人を孤立に追いやるものは何か」を考えさせる、皮肉なメッセージも含んでいる。すごく面白い小説だと思う。
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