世代や性別によって話がまったく通じないあの感じ

まだ70代半ばで存命だった頃のペイリーの朗読会に村上春樹が参加したとき、聴衆のほとんどが女性で、その年齢も20歳くらいの女の子からおばあさんまで、かなり幅広かったという。それもそのはず、ペイリーの小説に登場する「女性」は、年齢も結婚も子供がいるいないも関係なく響く、独特のキャラクターであることが多いのだ。そこで最後にもうひとつ、『最後の瞬間のすごく大きな変化』の中から、『父親との会話』というあらゆる女性に広く共感されそうな短編を紹介したい。

『父親との会話』の主人公は、86歳の父親がいる中年の女性だ。父親は主人公に、“普通”の人々についての小説を書くべきだと諭す。主人公はそこで、40歳になった女性がそれまでの悲惨な人生に見切りをつけ、新しく再出発しようとする物語を書く。しかし父親は「“普通”なら、40歳になった女が1人で人生をやり直すことなんてできるわけがない」と反発し、父と娘の会話はそのまま、平行線をたどる。たとえ親子という近しい間柄でも、世代や性別によって話がまったく通じないあの感じ、多くの人が「わ、わかる〜!」となるはずだ。

ところで最初に話はもどるけど、「40歳を過ぎてなおかつ素敵な女性」って、結局どんな人のことなのだろうか?

これについて、70歳半ばの白髪のおばあさんになってもなお「素敵な女性」だったらしいグレイス・ペイリーの小説からわかることがあるとすれば、それは「世の中に対して疑問を持ち続ける女性」「屈折したユーモアを駆使して相手が勝手にボロを出すのを待つことができる女性」とかになるのかもしれない……と私は考えた。が、世の大半の人からは賛同されなさそうである。まあいいんだ、私は勝手にそういう女性を目指すので。このアイディアをちょっとでも「わかるかも」と思ってくれる人がいたら、ぜひグレイス・ペイリーの短編集を読んでみてもらいたい。

Text/チェコ好き(和田真里奈)

初の書籍化!

チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。