女は「怖い」だけじゃない
「女はこわい」的な言説ってずっとずっと前からあると思うのですが、いつもどうにも腑に落ちません。
ノット・オール・ウィメン! みたいなことではないんです。そんなことは当たり前なので。
そうじゃなくて、本当は私たち、誰でも指紋のように固有の「怖ろしさ」「愛らしさ」「狂おしさ」を持っているんじゃないのかと、思わずにはいられないのです。
女が体を張るアクション映画もいい。楽しいセックスや恋愛を謳歌する女の映画もいい。
だけど「女はこわい」なんて生半可な結論をぶっとばすくらい唯一無二の「ヤバい女」の独壇場は、もっと痛快でもっと気持ちいい。
ハラハラとひねりの効いたミステリーと存在感抜群の強烈なヒロインにアドレナリンを搾りだされたいとき、全力でプッシュしたい映画。それが『ゴーン・ガール』です。
主人公はニックとエイミー。知り合って7年、結婚して5年。かつては深く愛しあっていたのに、関係の冷え切ってしまった夫婦です。
陽気なミズーリの男・ニックが大都会ニューヨークで知り合ったのが、エイミーという美女。美しいだけじゃなくハーバードまで出ている才媛で、両親が彼女をモデルにして描いた絵本『アメージング・エイミー』は国中で愛される人気シリーズ。もちろん家はお金持ち。文字通り、「アメージング」なイイ女。
けれど結婚生活の中でニックはプライドばかり高いエイミーにすっかり嫌気がさしていました。自分ほどには財産も教養もない夫を見下す態度、何でもコントロールしようとする性格、こちらの記憶や気づかいをテストするかのような記念日の過ごし方……。
今年の結婚記念日も真っ昼間から自分が経営するバーでひとしきり妻の愚痴を言い、足取り重く家に帰ってきたニックですが、今日は全く事情が違います。
盛大に荒らされた室内、争いの痕跡―――そしてどこにもいない妻。
片田舎の人妻が行方不明になったという報は瞬く間に全米を揺るがす「アメージング・エイミー失踪事件」となり、警察やマスコミを相手に上手くふるまうことができないニックは疑いの目を向けられることに。
「GONE」という単語には「いなくなった」「去った」の他にも「失われた」「死んだ」「狂った」など多くの意味があります。
果たしてエイミーの身に何が起きたのか? 何故、起きたのか? 夫がたどり着いた妻の秘密とは…
わ~、これ以上は言えない!!
夫婦を両側から見つめなおす
『ゴーン・ガール』の特に凄いところは二度も三度も度肝を抜かれる傑作ミステリーになっているだけではなく、結婚そのものを皮肉った大胆な作品でもあるところだと思います。
物語は前述のように妻の失踪という事態に直面した夫・ニックの視点でスタートしますが、随所に妻・エイミーが綴っていた日記の記述が挿し込まれます。二人の出会いから蜜月、そしてその綻びの中でエイミーはニックに失望を重ねていました。仕事が上手くいかなくなった途端卑屈になる態度、現実から逃げてばかりの無責任な性格、妻のお金は当てにしているくせにどんどんぞんざいになる扱い方……。
夫婦でものの見え方が面白いくらいにまるで違う。
それは当然のことなのですが、その生々しさが謎やスリルを加速させ、観客をますます混乱させる。
のっぴきならない危機的な状況に陥って初めて、ニックは妻と自分自身、その関係について真正面から見つめなおすことになります。
自分は妻の何を知っていたのか? 本当の彼女は何を考えていたのか? 二人は何故こうなってしまったのか?
この映画は公開当時、「絶対にカップルや夫婦で観ない方がいい!!」と主張する人が続出していたのですが、私はぜひ愛しあう二人にこそ観てほしいなと思います。
実際、私はこの映画を観るとすごく結婚したくなるんですよ。まだ仲間を見つけたことはないんですけれど。
「私たちは、世界で一番幸せな二人だった」
「だって誰より幸せになれないなら、一緒にいる意味なんてない」
エイミーの言葉の中でも一番好きなものの一つです。
幸せを願うからこそ愛しあい傷つけあいもがく合わせ鏡のような男女。
失踪と結婚、スケールは違うけど同じように難解な二つの謎に、おんなじ答えが眠っている。
もしかして、ものすごくロマンティックな映画なんじゃないかなぁ。ぜひ確かめてみてください。
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