独身が「寂しい」と漏らすと「それ見たことか!」と攻撃されるのではないか

その主張のすべてに同意しているわけではないけれど、少なくとも、この人と喧嘩になったら絶対に勝てない、120%敗北する……そう思っている著名人が、私には1人だけいる。東京大学名誉教授の上野千鶴子である。あえて主語を大きくするなら、上野千鶴子に喧嘩で勝てる女性は、今の日本には1人もいないのではないか。相手の弱みを見つけて突くことが抜群に上手く、必要であれば適度に自分の弱みを晒すことも厭わない。2024年に紹介させてもらいたい1冊目は、そんな上野千鶴子と作家の鈴木涼美が、恋愛、セックス、結婚、母と娘、自由、フェミニズムなどについて語った『往復書簡 限界から始まる』だ。

個人的に、「往復書簡」という形式をとった本で面白いものに出会えたことはほとんどない。明確な受け取り手がいる場では、どんなにインターネットなどで尖ったことを言っている人でも好き勝手にやるわけにはいかず、ちょっとだけ矛を収めていい感じに話を着地させようとしてしまうからだろう。しかし、この『往復書簡 限界から始まる』は例外だ。「矛を収めていい感じに話を着地」などさせてたまるかという気迫が両者から(というか、主に上野千鶴子から)伝わってくる。相手のアキレス腱の場所を探し当て、そこを一撃で突く! こういう言い方が適切かはわからないが、本書は、内容はともかく格闘技を見ているような楽しさがあった。ウエノ、ボンバイエ! スズキ、ボンバイエ! という感じである。

一人暮らしは「楽しい」が8割

本書で最初に取り上げられる話題は「エロス資本」。若い頃にブルセラやAV女優を経験した鈴木涼美は、自分は確かに性産業の被害者の側面もあったが、しかし男の性欲に傷つけられる一方だったわけではないと当時を振り返る。その中で上手いことやってきたし、いい思いもしてきたし、被害者の役割を一方的に背負う気にはなれないと。そして、対する返事で上野千鶴子は、それを「ウィークネス・フォビア(弱さ嫌悪)」だと指摘するのだ。

「エロス資本」やセックスワークの被害者性についてもっと詳しく知りたい人は実際に本書を読んでもらうとして、私に刺さったのはこの「ウィークネス・フォビア(弱さ嫌悪)」という言葉である。私は弱くない、被害者ではないと思いたいメンタリティが、私自身もたぶんすごく強い。この連載で私は何度も「結婚しなくても別に寂しくない」と主張しており、それ自体は嘘ではないのだが、なぜそんなことを繰り返しまくるのかというと、「寂しい」と1ミリでも漏らすと「それ見たことか!」と嬉々として攻撃されるのではないか、という恐れをけっこう抱いているからである。本当は「一人暮らし楽しいが8割、不安や疎外感が2割」くらいなのだけど、10割楽しいって言わないとダメなんじゃないかと思っている節がある。ここではっきりさせておくと、楽しさは10割ではないです! というか、全方位10割楽しい人生なんてたぶん結婚しても子供を産んでも何しても無理なので、「8割も楽しいなら上出来じゃないか」と思っておくことにしている。