人は食を通じて“セッション”している/「キッチハイク」共同代表・山本雅也さん&藤崎祥見さん

ひとり焼肉にひとりラーメン…ひとりのご飯は気楽だ。好みも食べる順番も、誰の気兼ねなく、好きなように食べられる。だから、ご褒美にひとりで…という人もいるでしょう。
ただ、それでも、「同じ釜の飯を食う」という言葉があるように、誰かと一緒にご飯を食べることに喜びを感じたり、一体感を求めてしまうのはなぜだろうか。
この度、書籍『キッチハイク! 突撃! 世界の晩ごはん』を上梓され、“料理をつくる人と食べる人が集まる交流コミュニティサイト”「KitchHike(キッチハイク)」の共同代表である山本雅也さんと、同じく共同代表の藤崎祥見さんに「なぜ人はだれかと一緒に食べたいと思うのか」についてお話を伺いました。
見知らぬ人同士でもごはんを通じてつながれる?

「KitchHike」共同代表・山本雅也さん(左)藤崎祥見さん(右)「KitchHike」共同代表・山本雅也さん(左)藤崎祥見さん(右)

――書籍を拝見しました! とても面白かったです。でもなぜ、海外の食卓にお邪魔しようと思ったのですか?

山本雅也さん(以下、山本)
食をきっかけに人は繋がれるのか…これは壮大な実験だと思ったんです。

――仮説から入ったんですか?

山本
ある文化人類学の本に、「地球上のどの民族も見知らぬ人がテリトリーに入ったら、争いを避けるために、食卓を一緒に囲んで絆を深める」みたいな面白い一節があって。今やコンビニで買ったり、牛丼屋にひとりで入ったりと手軽に食事ができる時代になりましたけど、見知らぬ人とご飯で繋がるっていうのは、実は新しく見えて昔は普通だったことだと思ったんですよね。なので、まずは自分が体現してみようと思って、450日かけて47カ国を食べ歩きました。
藤崎祥見さん(以下、藤崎)
それが今回の本にまとまっている、と。
キッチハイク!突撃!世界の晩ごはんの書影©『キッチハイク! 突撃! 世界の晩ごはん』(山本 雅也 著/集英社)
山本
僕ができることであれば、世の中誰でもできるようになるだろうと、ゼロトゥワンの発見をしてこれたのは大きかったですね。

――書籍には色んな国の食卓やエピソードが書かれていましたが、印象的な国や食事はありましたか?

山本
ブルネイの「アンブヤット」という食べ物ですね。タゴヤシいうヤシの木からデンプンを抽出してお湯で溶いた、ネバネバした水飴みたいなものです。 初めて見たのは、ブルネイの10人くらいの大家族にお邪魔したとき。色んなメニューの真ん中に透明なアンブヤットが鎮座していたので、「なんじゃこりゃ」と思いながら食べてみたら「おい、お前! 食べただろ!」って怒られて(笑)。

――え、なんでですか!?(笑)

山本
おかずにつけて食べるものだったんですよ。なので、言われた通りにしたら、「おい、お前! 今噛んだだろ!」ってまたすぐ怒られて(笑)。「噛まずに飲み込んで、喉越しを楽しめ」と言われたのですが…喉がぶりんっとするし味も匂いもないし…もう意味がわからない(笑)。
藤崎
世界にはいろんな食べ物があるなぁ(笑)。
山本
食べ歩きしてみて、食文化ってすごい自由だなぁって思ったんです。国境も関係ないし、地続きであれば、レシピとか調理方法はすぐ伝播しちゃう。だから名前が違っても似た食べ物って結構あるんです。ただ、アンブヤットだけは全く見かけなかったですね。

――完全な独立食!でも、特にコメントなく提供されたんですね。

山本
当たり前のように出されて、当たり前のように説明もなく。まあ僕が食べるときみんなニヤニヤしてたんですけど(笑)。

――確信犯ですね!

山本
どうするかな、みたいな。わさびを外国人に食べさせるみたいな雰囲気を感じましたけどね(笑)。

――文化が違う人とも楽しめるのが食のいいところかもしれないですね。

藤崎
しかも、食なら誰にでも相手を喜ばせるチャンスがあるからいいですよね。

三時間かけたりバラバラに食べ始めたり食と人の関係は様々

「KitchHike(キッチハイク)」共同代表・山本雅也さん山本雅也さん
山本
食って、人のつなげ方にすごく豊富な可能性があるんですよ。で言うと、インドネシアやフィリピンでは、ご飯のはじまりと終わりががふわっとしてましたね。料理ができはじめるとバラバラと集まって、バラバラと食べ始め、バラバラと解散していくのがファジーで面白いなと。

――流れ解散なんですね(笑)

山本
アルゼンチンには「パリージャ」という肉を3時間かけて炭火で焼く料理があるのですが、僕はランチって聞いていたのに、昼から焼き始めるから一口目は16時。(笑)。でも、焼き上がるまでの時間をみんなお酒飲みながら自由に過ごしていて、ごはんの時間が日本よりも捉え方が広いな、と思いました。

――ご飯が、人と人がゆるやかに繋がる機会になっていると。

山本
どんなにお金持ちで大きな家でも、机に置かれたごはんにめっちゃ集まるんですよ。こんなに広い部屋なのに、せまっ!肘ぶつかるしっ!みたいな。あれはちょっとおもしろかったですね。

――ごはんってすごいですね。どこでもみんな一緒に食べてるんですね。

山本
一緒に食べてましたね。

人は過去でも未来でも食というセッションをしたがる

「KitchHike(キッチハイク)」共同代表・藤崎祥見さん藤崎祥見さん

――では、なぜ誰かと一緒に食べたいと思うんでしょうか。

藤崎
「食」はいろんなものが凝縮されたものだと思っていて、特に最近は3つのことを感じています。一つ目は「普遍性」。世界中のほとんどの人が今日も昨日もごはんを食べていますよね。しかもこれって国境を越えて通じるので、すごく特別なことだと思ってます。

――映画や本だと、読んだ人、読んでない人とで別れちゃいますもんね。

藤崎
二つ目は、「共感性」。“食の趣味が合う人とは気が合う”とよく言いますけど、「このお店の味付け、薄めだね」「スパイスの辛味がちょうどいいね」と共感できるのは、食に色んな情報が凝縮されているからだと思います。
三つ目は「曖昧な再現性」です。食には、完璧にはコピーできない曖昧さがある。これは共感性とも密接につながっています。曖昧だからこそ、数字では表せない「いいね」という共感ポイント…もっと固い言葉で言えば、「特徴量」が食にはすごく多いんですよね。

――「カレー」と一言でいっても、色んなカレーがありますもんね。

藤崎
これらの普遍性、共感性、曖昧な再現性の三つを伴ったご飯は格好のコミュニケーションの材料になる気がしたんです。ご飯を食べることは生物的に欠かせませんが、そのご飯に集まること自体が人にとって大切なことなんじゃないかなと。

――食って他のものより繋がりやすい気がします。「映画が好き」と言っても、なかなか話が膨まないので。

藤崎
食の好みは自由だし素直になれるし、だから会話が弾むのかもしれませんね。

――人間の本能という点でも、食以外にないですよね。

藤崎
共感ポイントを持って、一緒にアクティビティができるのがポイントですね。一緒に食事をしたいというより、もともと一緒に何かしたいというところにちょうど食事があるみたいなイメージかな。
山本
セッションですよね。
藤崎
そうそう。結局人はセッションしたがりだと思うんですよ。人類が進歩して、栄養摂取の目的がなくなっても、食というセッションは残ると思います。

仕組みさえあれば、人はもっと繋がれる

「KitchHike」共同代表・山本雅也さん(左)藤崎祥見さん(右)
山本
セッションといえば、「盃を交わす」と言いますが、盃は昔、動物の角とか牙の内側をくりぬいてコップとして使ってたんです。なぜテーブルに置くと倒れちゃう牙や角を使っていたかというと、テーブルに置けないからこそ無意識に、自分が飲み終わったら次の人に回して飲んでいたんです。これは優れたUIの仕組みですよね。

――まさに仕組みが自然と根付いている理想形ですね!

山本
高知に「可杯(べくはい)」という、「おかめ」と「天狗」と「ひょっとこ」の日本酒を呑む器があるんですが、おかめ以外、天狗は鼻の先が丸いから置けないし、ひょっとこは口に穴が開いてて塞がないといけないから置けない…そんなギミックで自然とみんなが飲み回しちゃうというセッションをしてるんですよ。
藤崎
そういう自然な流れに乗っかれる仕組みがあれば、見知らぬ人たちとでも成り立ちますよね。
山本
今こそ改めて言ってるんですけど、キッチハイクは仕組みを作ることが大事だと思っています。何かメッセージを人に訴えかけても、人はやりませんからね。

――選挙に行こう!って言っても行かないのと同じですね。

山本
だからキッチハイクは「食を通じて人は繋がる」って言うんじゃなくて、仕組みにして、自然に世の中に根付いていくようにやってます。
藤崎
キッチハイクでご飯を食べる=人と自然に出会う、交流できる仕組みができてると思います。

キッチハイクは”現代版スナック”

「KitchHike」共同代表・山本雅也さん(左)藤崎祥見さん(右)

――キッチハイクには料理をつくる人「COOK(クック )」と食べにいく人「HIKER(ハイカー )」がいますが、どんな方が参加されてるんですか?

山本
毎月600人のマッチングが起きてるんですが、ほとんどがおひとりさまでの参加です。女性の方が多いですし、クックも8割以上女性ですね。

――サイトを拝見したんですが、グルメな人ばかり、といような偏っている雰囲気がなくて、普通な自分でも溶け込めそうな感じがしました。

山本
キッチハイクの面白いところは、クックさんがプロじゃないこと。趣味だったり、友達のために作っていたらいつのまにか上達していたり、自分の好きな一つのメニューをとことん追求しているだけだったりな人が多いです。そんな“自分のちょっと延長線上にいそうな人”がもてなしてくれるので、距離も近いし、共感もしやすくなります。

――食がいい媒介になっているんでしょうね。生身を求められてない気もします。

山本
キッチハイクは”現代版スナック”じゃないかと最近感じています。常連さんとか一見さんが「初めてなんですか?」「よくいらっしゃるんですか?」と話すようなあの緩やかな横のつながりと、そこをうまくファシリテイトしてくれるマスターの存在。その構造がすごく似ているなと。

――今後はどのようなことを仕掛けていくのですか?

山本
今後の展望は3つあります。1つは、地域と連携していくことです。そのハブになるプロジェクトが「みんなのキッチン」 。地域ごとに、クックがポップアップ(料理イベント)を開催できる場所を提供していきます。自宅だけではなく、シェアハウスやシェアオフィス、キッチンスペース、コミュニティスペース、飲食店のアイドルタイムに利用するので、今、首都圏中心に10か所以上のキッチンスペースと提携させてもらっているんです。

――そんなにあるんですね!

山本
各地にクックと食べたい人が集まるハブができれば、地域の活性化や、ご近所さん同士がつながるきっかけになると思っています。
藤崎
場所があったら料理を作りたいっていう人はたくさんいるんですよね。
山本
2つ目は、食にかかわる地域行政や企業とコラボしたポップアップ名を開催すること。2月に徳島市役所さんとコラボイベントを実施したのですが、人気クックさんに徳島の食材を使った料理をしてもらうことで、徳島の空気や食事が素晴らしいところを宣伝できました。このときもおひとりさまの参加が多かったですが、「しいたけが大きい!」「これ、食べたことある!」などなど、徳島トークで盛り上がってましたよ。
藤崎
食がうまく作用してる証ですよね。
山本
そして、3つ目が、「オフィスKitchHike」 です。クックがオフィスやコミュニティスペースに、“食”と“交流”をテーマにしたPop-Up(料理イベント)を開催しにいく企画です。お昼ごはんをチームみんなで一緒に食べると楽しいよ、夜のまかないを食べながらおしゃべりしよう、という、KitchHikeの社風まるごと提案していきます。
藤崎
カルチャーコンサルみたいな感じでしょうか、いわゆる普通のケータリングとは違いますね。

――編集部もですが、みんなで一緒にごはん食べてるチームって仲いいですよね!

山本
もう喫煙室とか、変な飲みニケーションとかいう時代でもないですからね。
藤崎
現代人のコミュニケーションのきっかけをつくれたらなと思ってます。

――あらためて、食でつながる可能性を感じました!

藤崎
「SOLO」の読者って、一人をもっと楽しみたいって感じですよね。だから、キッチハイクで作るのも食べに行くのも、すごく楽しめると思います。食事自体が話題の塊ですから、話題に尽きることもないですし。
山本
今度おひとりさま限定のイベントとかしたらいいかもですね!

――ぜひお願いしたいです!今日はありがとうございました。

Text/SOLO編集部

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※2017年5月23日に「SOLO」で掲載しました