疲れていたのは胃と生殖器だった
先日も例によってこのマッサージ店を訪れ、あまりピンとこない足裏マッサージを受けていた。すると、いつになく一箇所、めちゃくちゃ痛いところがあって、思わず「そこちょっと痛いです」と伝えた。すると「ここ、いたい?いたいは、胃、つかれてる」と、静かな店内に配慮して、お兄さんがささやき声で教えてくれる。そう言われると、確かに胃が重いような気がする。足裏は、押されて痛い場所によって、体の中の弱っている箇所がわかるという。
長らく通っていながら初めて成立したお兄さんとのコールアンドレスポンスに気を良くして、以後ちょっと痛むたびに、そこ!そこも痛い!などと声をあげていると、終盤で突如、それまでの「イテテ」が比じゃないくらい強烈に痛む箇所があり、つい「ウッ」と派手めな呻き声をあげてしまった。「ここ?」と確認し、よりぐりぐりと猛烈にプッシュするおにいさん。「イテテ、そこ!そこ!そこめっちゃ痛いです」猛アピールする私をちらっと見て、お兄さんは言う。
「生殖器です」
静まり返った店内に、胃と生殖器の疲れた一人の女。
その疲れ、あんた一体どこで背負ってきたの、と……思わず自らの生殖器に問いかける。
疲れていたのは心でも何でもなく、欲望を処理する2大臓器であった。
大都会・東京で私、思った以上に欲深く生きている模様。
Text/紫原明子
初出:2016.03.02