「愛は類似ではなく、違いから生まれるものだ」

主人公のゲンリー・アイが惑星ゲセンにおいてもっとも深く交流するのが、カルハイド王国の宰相エストラーベンだ。しかし、このエストラーベンはカルハイド王国の王の寵愛を失い、惑星ゲセンの厳寒な気候の中、追放されてしまう。ゲンリー・アイは紆余曲折あって、追放されたエストラーベンと行動をともにする。

エストラーベンは両性具有なので、男性であると同時に女性だ。そして、ゲンリー・アイは男性。2人はともに氷原を彷徨う中で惹かれあい、男同士の友情でもなく、けれど男女の恋愛でもない、奇妙な関係を築いていく。両性人類であるゲセン人と単性人類である地球人でセックスが可能なのかどうか、2人はよく知らない。知らないけれど、2人は、旅を続ける中で静かに触れ合う。

『闇の左手』はSFだけあって細かな設定が多く、正直、あまり読みやすい小説だとは言えない。だけど、このゲンリー・アイとエストラーベンの交流は、なかなか胸を打つものがある。異星人と心を通わせる中で、ゲンリー・アイは「愛は類似ではなく、違いから生まれるものだ」と悟る。異性間、同性間、そして異星人間。他者と分かち合うことは難しいけれど、私たちはその分かち合えない部分にこそ、惹かれあっているのだろう。

私が『闇の左手』を面白く読んだのは、現実逃避や思考実験的な部分が興味深いと思ったからだ。でも、外出自粛が続き良くも悪くもパートナーとの関係を見直している人も多いだろう今、改めて、これは読まれるべき小説なのかもしれない。

初の書籍化!

チェコ好き(和田 真里奈) さんの連載が書籍化されました!
『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか -女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド-』は、書き下ろしも収録されて読み応えたっぷり。なんだかちょっともやっとする…そんなときのヒントがきっとあるはすです。