「顔面偏差値」という言葉は悪質だと常々思っているんだけど、そういえば、自分の容姿のレベルを意識した最初の瞬間のことを、私はちゃんと覚えている。
それは小学1年生のとき、同級生の「まいちゃん」と2人で一緒に下校していると、同じ帰り道を歩いていた上級生の女の子が私たち2人を見比べて、「まいちゃんのほうが可愛い」と、はっきり言ったのである。
上級生は女の子だったので、それは男性から評価されるいわゆる「可愛い」とは、ちょっとニュアンスが違っていた。また私が老け顔傾向にあり、幼少時から無愛想だったことなどを考慮すると、32歳になった今ならそれほど落ち込むことではないとわかる。だけどこうして25年近い年月を経てもはっきりと記憶しているくらい、当時はショックだったのだ。自分の容姿が、隣のまいちゃんと比べて、それほど可愛くないと評価されたことが。
石原さとみではない私たちの多くは、こうして人生のどこかで、自分の容姿に対して望まないジャッジをされる。
西加奈子さんの『きりこについて』の主人公・きりこは、中学生のとき、告白した同級生の男子に「ぶす」と言われたことに、大変なショックを受ける。大好物だった、ママの作るマッシュルームと青梗菜のクリームパスタが食べられなくなってしまうほどに。
絶対評価から相対評価へ、そしてまた絶対評価へ
生きていると男女関わらず、どうしたって容姿についてまわりの人間から評価を受ける。『きりこについて』は、ただ無心に自分は可愛いのだと信じていられた絶対評価の幼少時代から、容姿をジャッジされ、良くも悪くも「顔面偏差値」を意識する相対評価の少女時代を経て、教養や人間性も含めたその人自身に魅力があることを知り、再び絶対評価の美しさに立ち返る大人になるまでの物語だ。
まあ正直、少女時代と大人の間はなかなか断ち切れずグレーゾーンのまま残っていることが大半で、私自身も自分の容姿を愛おしく思いつつも、未だに他の女性の容姿と比べて落ち込んでしまうこともなくはない。
きりこはどのような経験を経て、大人へと成長するのか。きりこには、セックスが大好きで、後にAV女優になる「ちせちゃん」という友人がいる。ちせちゃんはセックスが大好きなので出会い系でさまざまな男に会い続けるのだが、その中の1人の男に、生理中であることを伝えたにも関わらず無理やり押し倒され、レイプされてしまう。被害を訴えるためにちせちゃんときりこは、「あなたの心を取り戻す会」の扉を叩く。
そこでちせちゃんときりこが受けた対応は、いかにも現代らしいものだった。
レイプされた被害を訴えてもいい女性は、ミニスカートやキャミソールなど肌の露出が多い服を着ていてはならず、出会い系で男に会ったりしてはならず、ましてセックスが大好きではいけないのである。勇気を出して扉を叩いた「あなたの心を取り戻す会」に、ちせちゃんときりこは追い返されてしまう。この場面は、ジャーナリストの伊藤詩織さんが準強姦被害を訴えた会見時に、シャツのボタンが開いていたことの指摘を彷彿とさせる。
最終的には、ちせちゃんときりこは2人で会社を起こしそれを成功させることで、この不遇な経験を一緒に乗り越えていくのだけど……。
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