恋に溺れられるのは、依存する女ではなく、信念のある強い女であること

ピンクの髪の女性の画像 by katyandgeorge

「わたし、あなたが好きよと言って、真っ直ぐに、ぴたっとその人の眼を見て言ってごらんなさい。いやだと言って、断るものはありませんから 」

これは、恋に仕事に奔放な女性として生きた宇野千代の自叙伝『生きていく私』にある、宇野千代自身の言葉である。
うーん、こんなこと、私も一度言ってみたい。尾崎士郎、川端康成、梶井基次郎、東郷青児と数々の著名な小説家や画家と浮名を流し、結婚と離婚を繰り返す波乱万丈の生涯を過ごした宇野千代。こういう精力的な人物ってたいてい夭折してしまうイメージがあるけれど、宇野千代は98歳まで生きた、めちゃくちゃエネルギッシュな女性である。
結婚している身でありながら他の男と同棲したりして、倫理的にはいろいろな問題があったかもしれないけれど、宇野千代はそんな世間の糾弾なんてきっと鼻で笑って済ませてしまうのだろう。

凡人である私たちは、宇野千代の真似なんて決してできない。だけど80年以上の生涯について語られた『生きていく私』を読めば、彼女がなぜここまでモテにモテまくったのか、なぜここまで自分に正直に生きることができたのか、そのエッセンスくらいはおすそ分けしてもらえるかもしれない。

自分への揺るぎない自信と、欲望への忠実さ

冒頭で紹介した、「真っ直ぐに、ぴたっとその人の眼を見て言ってごらんなさい」という言葉を思い出してほしい。私には、この言葉に、宇野千代の「モテ」の秘密が、ぎゅっと凝縮されているような気がするのだ。

まず彼女は、自分自身への揺るぎない自信がある。それは、「自己肯定感」などの言葉で言い表せるようなものよりも、もっと確固たる意志、強い信念のようなものだ。誰に何と言われようと素敵だと思った男と恋をして、欲望のままに寝て、自分の好きな仕事に身を費やす。
数年前、「だって、『幸せそう』って思われたい!」という女性向けファッション誌のコピーが物議を醸したけれど、宇野千代は、まわりからどう見られるかなんて、そんな瑣末なことは一切気にしない。
「人がどう思うか、とか、世間がなんというかなどということはこれっぽっちも私の頭には浮かばなかったのである。ただそれだけのことであるのに、私がなにか特別なことをしてきたかのようにいう人が少なくないとは、なんと面白いことではないか」と、宇野千代は『生きていく私』の後書きで記している。

こういった信念があったからこそ、好きよと言って、真っ直ぐに目を見れば、どんな男でも落とすことができたのだろう。揺るぎない自信を持つ人間は、とても魅力的だからだ。

また、宇野千代は自身の男性遍歴を世間に隠さなかった。子供がいなかったからそこまで糾弾されずに済んだという面はあったかもしれないけど、それでも時代を考えれば、数々の男性と浮名を流すことはそれなりに風当たりも強かったに違いない。
だけど誰に何を言われても、宇野千代は自身の欲望に忠実に、真っ直ぐに生きた。バツがつこうとも、自分のほうが浮気をされようとも、後悔しなかった。強い女性だったのだと思う。そしてその強さが、たくさんの男性を引きつけたのだろう。