どっちつかずの天気が続いて梅雨なのかもう夏の入口なのか、戸惑うこの頃です。
皆さまはどんなお日柄の時に訪れる純喫茶がお好きですか?
夏の良く晴れた暑い日にあえて地下のひんやりした空間に閉じこもるのも、縮こまるほど寒い冬の日に心がほどけるようなあたたかい店内であえて冷たい飲み物を注文する贅沢も、季節によって日によって、また時間帯によって、色々な表情を楽しめるのが純喫茶の魅力の一つだと思います。
今回は、雨を眺めいつまでもそこに佇んでいたくなるような、大きな窓が特徴的な純喫茶について綴ります。
駅のシンボルの傍には絶品メニューがあった
JR中央線(停車は平日のみ)・総武線が行き来する阿佐ヶ谷駅。ホームから良く見えるとても背の高い木の名前がずっと気になっていました。本格的な夏を迎える前のこの季節には青々しい葉をふんだんにつけ、冬になると光を纏ってクリスマスツリーとして街の人たちを楽しませる、シンボルのような存在である大きな木。
その真横に位置する2階にあるのが「ウィング」。
幾度か訪れてはメニュー表を眺める度に「料理がどれも美味しそうだ」と思っていたのですが、飲み物やデザートのみで過ごすことが多く、その余韻を残しながら階段を下りる日が何度か。今回、ようやく念願の食事メニューを注文するタイミングに恵まれたので迷ったあげくに「グラタントースト・フルーツサラダ添え」に決定。
注文後にふと窓の向こう側を見ると、ちょうど夕暮れ時だったためか一刻一刻その色合いを変える空の色と、まるで映画を見ているように移り変わる人たちの流れに目を奪われました。窓枠が大きな絵画のフレームか映画のスクリーンのようだったのです。
眺めたままぼんやりしていると、テーブルに運ばれてきたのは湯気さえも美味しそうな熱々のグラタントースト。どちらが主役か分からなくなるほど、たっぷり置かれた果物にときめきます。
指先から全身に幸せが伝染するふわふわとしたパンのやわらかさと、ソースの中にひそんだマカロニたちにも予想していなかった喜び。フォークとナイフで切れ目を入れて頬張り、途中ひんやりとしたあまい果物たちを頂く幸せ。
帰り際、他の人たちにもこの美味しいメニューについて教えたい旨を一見クールなマスターに伝えると、一瞬で笑顔になり、「もちろん! たくさん宣伝してね」と応えて下さったのでした。
お店が混雑していない時に厚かましくも感想を伝えたくなってしまうのは、こんな瞬間があるから。「美味しい」という言葉は、言っても言われてもきっと幸せな会話。
こうやって綴っている間にも、あのグラタントーストの味わいを思い出しては今すぐに駆けつけたい衝動にかられるのです。
お近くの方も遠方の方も、料理の美味しさや空間の居心地の良さはもちろん、チャーミングなマスターたちや季節ごとに変わる大きな窓からの風景を楽しみに出掛けてみませんか?
Text/難波里奈
難波さんの新刊『純喫茶の空間 こだわりのインテリアたち』に興味がある方はこちらから!