数少なくなった「マッチ」が私に運んでくれる純喫茶での思い出

皆さんは何かを集めることがお好きでしょうか?
私は年を経るごとに物を集めることは少なくなりましたが、かれこれ10年ほど、訪れた純喫茶の思い出を『純喫茶コレクション』というブログにマイペースに綴っています。ブログを開設する際に「訪問した喫茶店の記録を自分のために、後から見返して色々なことを思い出せるように、まとめていこう。タイトルは、『喫茶店コレクション』でも良いけれど、特別な思いを込めて『純喫茶コレクション』にしよう」と考えたのでした。

ブログ名にある『純喫茶』は、一般的に言われる「アルコールを出さず珈琲を出すことを生業としている喫茶店」という解釈に加えて、私の考えるゆるやかな定義の「昭和の時代から今に至るまで、長い間たくさんの人たちに愛されている喫茶店」という意味を含め、「私は『純』粋に『喫茶』店が大好きである」という強い気持ちを込めて名付けました。

このブログでは、純喫茶の内装、そこで食べたもの、マスターとの会話など訪問した時の記録を主に残していますが、実は形として残るものも集めていて、今もとても大切にしています。
それは「マッチ」です。

「純喫茶コレクション」の難波里奈さんが集めたマッチのコレクション 集めているマッチの一部

使い捨てライターが普及し、喫煙者も減少した現在では、マッチを作る会社も少なくなってしまったのでしょう。煙草との密接な関係度合でいえば、居酒屋の次くらいに順位を保っていそうな純喫茶でさえも、ここ数年の間に、置いてある店はどんどん減ってしまいました。

画「純喫茶コレクション」の難波里奈さんが集めたマッチのコレクション (左)駒込・アルプス、(右)池袋・タカセ

会計時の「すみません、マッチがあったら頂けないでしょうか?」と聞き、返事を待つ間はとても緊張します。だからこそ、ごそごそとレジの裏を探して「はい」と手渡して下さった時の喜びはひとしおです。見た映画の半券を集める方がいらっしゃるように、私は訪れた純喫茶のマッチを見るたびに、訪れた時間を思い出して嬉しくなるのです。

純喫茶に入ってから出るまでの数十分間。珈琲を飲んだ時間やその時の匂い、一緒にいた誰かとの楽しい思い出をマッチの中に閉じ込めて、思い出をコレクションしているのかもしれません。

画「純喫茶コレクション」の難波里奈さんが集めたマッチのコレクション 高崎・コンパル

時には、中身がすでにない箱だけのもの、電話番号が現在とは違うもの、かつて営業していた姉妹店の名前が一緒に記されているもの…。マッチは純喫茶の名刺になるものなので、デザインも店それぞれ、マスターたちのこだわりが光ります。

著名人が描いたイラストのもの、しゃれが効いたもの、古くならずに今もモダンな配色をしているもの、ゆるやかなデザインがほっとするもの…。1つ1つがとても大切です。

画「純喫茶コレクション」の難波里奈さんが集めたマッチのコレクション 郡山・ピエロ

店を出るときにマッチを頂けることがあまりにも嬉しくて、最近では自分でもマッチを作成するように。私の手から誰かに渡ったマッチが、楽しかったことを思い出す記憶の一部になりますように、そんな願いを込めて。

Text/難波里奈

※2016年10月28日に「SOLO」で掲載しました

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