1人1人に向き合った高架下の純喫茶
ガタン、ゴトン…。普段なら気にしないような音たちを、まるでBGMのように楽しむことが出来るのは純喫茶というリラックスした空間の中にいるからでしょうか?今回は、天井の上を電車が走る高架下の純喫茶を紹介します。
JR神田駅北口から徒歩数十秒で到着できる神田珈琲園は昭和33年に開店し、58年もの歴史があります。立派な髭をたくわえたダンディーなマスターは「あと2年でここも還暦だから、その時は壁を真っ赤にしようかなんて話しているよ。」とユニークな一面も。戦前は銀座でジャズ喫茶、戦後も新橋でジャズクラブを営んでいたハイカラなお祖父様から「喫茶店に向いている。」と言われ続け、違和感なく珈琲の世界に入り、20数年が過ぎたとのこと。
「ただコーヒーを提供するだけではなく、コミュニケーションの場所でありたい。」美味しい珈琲を淹れることはもちろん、それ以上に来て下さる方たちが喜んでくれるようなサービスを心掛けているとのこと。何十年もの間通っていた常連客が引退した時に送られてきた手紙について話して下さった時は心から愛おしそうな表情に。また、従業員への教育にマニュアルを使用しない理由として、1人1人に向き合った接客を行うことは自然と最上のサービスになると考えているから。
「変わらない場所でいたい。ふらりと久しぶりに訪れた人たちの記憶の引き出しを開けるきっかけになれば嬉しい。」
そう言って笑うマスターの言葉に大きく頷くのでした。
珈琲やトースト類ももちろん美味しいですが、こちらで是非注文して頂きたいのはコーヒーゼリー。ぷるぷるとした苦めのゼリーの上にはなんとババロア、その上にはミルクがかけられた美しい3層。一緒に添えられる蜂蜜はお好みで。1日8個限定のため、あらかじめ電話予約をしてから来店されるファンもいらっしゃるとのこと。18時を過ぎると二階席が全席禁煙になることもお客様の意見を大切にした結果です。
Text/難波里奈
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※2016年4月1日に「SOLO」で掲載しました