運良く訪れることができた「帆船」「ベニヤ」でのひととき
とはいえ、入店できなかった純喫茶に対して、心の中ではあきらめの悪い部分も。
今回の彦根散策では、趣のあるビルの中で栄えていたであろう「COFFEE & MUSIC チャップリン」や、一文字ずつ立体的に作られた店名のオブジェが素敵だった「らんぶる」、ガラスケースの中で色褪せたメニューサンプルが目を瞑って休んでいるように見えた「洋酒喫茶 山」など…。
「COFFEE & MUSIC チャップリン」
たくさんの人たちが賑やかに集っていた頃は、いったいどんな表情を見せたのだろう…と妄想は膨らむばかりです。
「らんぶる」(上)/「洋酒喫茶 山」(下)
しかし、運良く訪れることができた2軒の純喫茶たちもそれぞれ素晴らしかったのでした。
ひこね丼(近江牛のスジを名物の赤こんにゃくや玉ねぎと一緒に柔らかく煮込んだもの。爽やかな大葉がアクセントで、ママからは「七味をかけると更に美味しいよ」と薦められたもの)に舌鼓をうった「帆船」では、窓際の棚に並べられた漫画たちをいつまでも読んでいたかったですし、
「帆船」
外の世界から遮断されたように静かで、大きな植木鉢の仕切りがまるで森の中にいるような「ベニヤ」では、真っ赤なビロードのソファに沈み込んでそのまま溶けてしまいそうなリラックスした気持ちで過ごすことができました。
「ベニヤ」
無くなってしまったものに思いを寄せるのは切なくも楽しいことですが、営業して下さっている店に対し、これまで以上にたくさんの敬意を払い、気になる店を見つけたら迷うことなく扉を開け、そこでの数十分を自分の人生に刻んでいきたいと思ったのでした。
Text/難波里奈
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※2018年3月16日に「SOLO」で掲載しました
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