一億総レビュー社会も現代アートの前では用をなさず

レビューや他の人の情報に頼りにすると、確かに買いものにおける失敗は少なくなります。だけどそのぶん「自分で考えて買う」力は衰えていってしまう。しかしその点、現代アートの購入は、そもそも一点モノか数点モノですから、「他の人の声を聞く」という手が封じられています。
「たくさんの人の声」も、「価値観が似ている人の声」も、モノが一つしかないのだから参考にならない。となると、これはもう自分でとことん考えて判断するしかないのです。

前述した山内マリコさんのエッセイには、この「現代アートを買った話」も実は登場します。「買う(かも)」という目線でギャラリーや美術館、あるいは街中へ出ると視点が変わるし、もっといろいろなことを調べたいという気にもなってきます。
現代アートの購入は、思考力と直感力を使うから、いつか来るそのときに備えて、それらを鍛えるようにと頭が動くんですね。アートの購入、実際やるかどうかは別にして、候補としてだけでも頭に入れておくと、モノに対する新たな価値観が獲得できるかもしれませんよ。

※2016年7月7日に「SOLO」で掲載しました