アラサ―世代の間で話題をかっさらっている、東村アキコさんの漫画『東京タラレバ娘』。恋愛や仕事がうまくいかない倫子、香、小雪の3人を取り巻く、アラサ―女性の心を直撃する描写の数々に、奈落の底に突き落とされている方がちらほらといるようです。
一方で、いまいちピンと来ずに首をかしげているような人もいて、感想戦は血で血を洗うような殺伐とした様相を呈しています。が、同じ世代で1つの漫画に夢中になってああだこうだいうのって、なんだか楽しいですよね。議論というのは、1つの立派なエンターテイメントです。
『タラレバ娘』に泣く男
しかしこの『東京タラレバ娘』、私のまわりでは女性読者だけでなく、男性読者がとっても多いようなのです。はじめは、「なんだってこんな、“女による、女のための、女の漫画”をわざわざ読むんだろう……」と不思議に思っていたのですが、最近になって、ようやくその理由がわかってきました。
『東京タラレバ娘』は、彼氏がいない、結婚できない、とはいえ仕事に邁進しているともいい難い、そんなアラサ―女性たちに叱咤激励という名のエールを送る、「説教系メディア」。しかし昨今、我々女性の間では、こういった耳に痛いことをいう説教系メディアに対して、反旗を翻す声が徐々に上がってきているように思います。
「だからお前はダメなんだよ」と、怒られて素直に反省していた時代もあったけど、あまりにも怒られるのでだんだんムカついてきた……ってかんじでしょうか。はいはいと黙って聞いてりゃ調子にのりやがって、とここまで喧嘩腰なのは私だけですね。すみませんでした。
こういった説教系メディアがなぜ発達してきたのかというと、それはひとえに、我々女性が内省的な傾向を持っているからですよね。恋愛や人生がうまくいかないのは、自分に原因があるからだと考える。一方で、男性向けの説教系メディアというのはこれまでほとんど見られませんでした。それは、彼らに反省すべき材料がなかったから、というわけでは決してありません。ただ単純に、多くの男性には内省的な傾向がなく、説教系メディアに対する需要がなかったからでしょう。
しかし、そんな男性たちの目に、もしかしたら『タラレバ娘』は新鮮に映っているのかもしれません。インターネットを観察していると、私が「えー、別にそんなことないけどなー」とスルーしていた箇所で、しっかりエグられて心の涙を流している男性がいるのです。彼らは女性をバカにしているのではなく、倫子や香や小雪のことを、自分のことと受け止めて内省しているらしい。なんだか他人事のように、面白い現象だなあと思ってしまいました。
「自分らも、人のこと笑ってる場合じゃないのでは」と気付き内省を始めた男性と、あまりにも怒られるのでいい加減飽きてきちゃった女性。
昨今の「説教系メディア」を取り囲む環境は、そんな具合になっているのでは……というのが私の仮説です。
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