会社に仕事のできない人がいて、少し困っていた。しかも、彼女は私よりも8つ年上なので更に質が悪い。年上の後輩というべきか。役職は私と同じく平社員なのだが、私が毎回彼女の仕事について指示を出し、随時チェックをしなければならないので後輩と言ってしまっても差し支えないだろう。
マニュアル通りができない私、臨機応変ができない彼女
少し前まではどうするべきか、頭を抱えていたのだが、最近ではその考えも頭の中から一切抜け落ちてしまった。そのため、「少し困っていた」と過去形になっている。所詮仕事だし、感情をあらわにして怒っても仕方がない。同じ仕事をしているため、今の生活を送り続ける以上、大部分を一緒に過ごすこととなるんだしさ。さらに、互いの間に流れる空気が険悪になれば、当人同士だけではなく、周囲からも気を遣われ、何かと迷惑をかけそうだ。
まあ、その前に職場で出会った何の興味もない人に怒るのも面倒なんですけどね……イラっとするのも不機嫌になるのもエネルギーが必要になるし、その感情に自分が振り回されるのも馬鹿らしい。私のズボラでがさつで、面倒くさがりな性格は、自分の感情をコントロールする部分でも十分に威力を発揮してくる。
そもそも私は人の話がまったく聞けず、マニュアルも読めないのでとりあえず手を動かしながら仕事を覚えていくタイプだったりする。メモも一切取らない。読み返さないから。先輩から「これと同じもの作って」と言われれば9割くらいの精度で同じものが作れるし、「こういうのが欲しいんだけど」という口頭の雑な注文でもある程度仕事を進めることができる。ただし、やり方が決められたことをし続ける仕事は大の苦手だ。適当だからなのかもしれないが、そういう仕様になっている。
その後輩は、真逆のタイプだった。12割くらいの丁寧すぎる説明をし、やっと7割のものを完成させてくれる。質問をされるも、「え、それ考えればわかることやんけ……。」「この前説明したやんけ……。」というものばかりで、的を得ていない。なんか、ちょっとズレている。もちろん口に出すこともなく、それなりの態度で対応をするのだが、いつまで経っても不慣れなまま、手も離れないので、ほとほと疲れてしまった。なんというか、自分のことを自分で決められず、人の言うことは忠実に守るが応用のできないタイプの人なのだと思う。
彼女専用マニュアルを作ったら
今の会社には私よりも後から入ってきたとはいえ、社会人歴としては私よりも遥かに長い。今までどうやって仕事をしてきたんだろうか……? こんな感じでずっと仕事してきたってこと……? えー、そんなことある? というか、日常生活はどうしているんだろうか。なんだか、逆に心配になってくる。確か、頭もよかったはずだ。私よりも3倍くらい偏差値の高い(体感)大学を出ていたはず。なんで馬鹿な私にできて、頭もよくて社会人歴の長いあなたにこんな簡単な作業ができないんだ……こんなこと、考えてはならないのはわかっているのに、あまりの空回りぶりに色々な思考が脳裏をかすめる。
しかし、どうも本人はまじめに一生懸命やっているらしかった。やる気がない訳ではない。そのやる気が、変な方向に向かってしまっているだけで。これは指示を出す側の私がきちんとやり方を改善してあげねばならない訳で、考えに考えた末、ひとつの作業がはじまる前に、あまりにも丁寧に説明をしすぎたガッチガチのマニュアルを作って渡し、「そこに書いてあること以外はしなくてもいい」という指示を出して、仕事をしてもらうことにした。それが最近の話で、まだ経過を観察している最中ではあるのだが、いくらか改善されたかのように思う。私のなかの小さく育つ不穏な感情も緩和されつつある。
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