はじめての診察でパニックになってしまった
初めての婦人科。女性特有の場所(エステサロンやランジェリーショップなど)が苦手な私は、少し緊張していた。決して女性らしくはない自分には不相応な気がするから。なかに入ってみるとたくさんの女性が広い待合室に座っている。どのような理由で足を運んでいるのかはわからない。けれど、「悩んでいたり、トラブルを抱えているのは私だけじゃないんだな」と少し安堵する。
予約したこともあり、すぐに番号が呼ばれ、診察室に通される。当然だけれど、目の前には女医さんが座っており、年も50代くらい。眼鏡をかけていて優しそうに見える。ここでもホッと胸を撫でおろす。
「今日はどうされたんですか?」と尋ねられ、2か月生理が終わらないこと、日常的によく起きていること、おそらくストレスが原因であることを伝える。
「最初に生理が来たのはいつ?」「わかりません」「28日周期ですか?」「多少前後します」というやり取りをするだけで、なんだか自分が女性を名乗ってはいけないような気さえしてくる。あまりにも無頓着で、とにかく恥ずかしい。自分が悪いことなんて、わかっちゃいるけれど。
「では、中を見てみましょうか」と言われ、また別の部屋に通される。薄々感づいてはいたけれど、具体的にどこを見るのか、何をするのかの説明はない。いや、意図的にしなかったのかもしれないが。
「下着まですべて脱いで、台に乗り、ここに足を乗せてください」と言われ、言われたままの状態になる。足を乗せると、ちょうど身体を真ん中にして、股が90度開くようになっている。下半身には何も履いていない。自分の女性器に触れる空気がなんとなくひんやりとする。私は、先ほど会ったばかりの医師と看護師に無防備にも股をかっ開いている。名前も知らない、初対面の赤の他人にこんな無防備な状態を見られたことは未だかつてなく、こんなにも屈辱的なのか。膝がどうしても、内側に閉じていく。何度「もっと足を開いてください」と言われても、足が開かない。震える。恥ずかしいけれど、怖いわけではない。でも、足が笑うってこんな状態を言うのだと思った。心の中では足を開かなければいけないことはわかっているのに、言うことを聞いてくれない。
下半身が見えぬよう、お腹の上にカーテンが引かれる。「それでは、見ていきますからね」と言われ、数秒も経たぬうちに自分の性器に何かが当たる。何をしているのかまったくわからないけれど、その何かがまったく入っていかない。そりゃそうだ。興奮もしなければ、濡れてもいない。細い異物が自分のなかに入り込み、ぐりぐりとこねくり回されている。痛い。冷たい。そして、複数人の視線を感じる。子宮の壁を何かで押さえつけられているような感覚だった。
「力を抜いていてくださいね」「もっと足を開いてください」と何度も何度も言われるが、私にはそんな余裕はまったくない。頭のなかがパニックになり、「ごめんなさい」「すみません」ととにかく謝りまくっていたことを覚えている。終わった瞬間、手の震えが止まらなかった。恥ずかしい、怖い、悲しい、どの感覚とも違う。女に生まれてきてしまったことを悔いながら、なんとも説明のできない感覚が頭のなかを埋め尽くす。
何かの作業が終わると、「ついているゼリーも拭き取りますからね」と股を看護師さんに丁寧に、かつ優しく拭き取っていただく。なんと屈辱的なのだろうか。この間、おそらく5分にも満たない時間だったけれど、考えていたことは「いっそのこと死んでしまいたい」ということだけだった。なんなら、まだ股に感覚が残っている。