いつまでも年下でいたい。
この強い願望にも近い気持ちは私が三人兄妹の末っ子だからだと思う。
生まれた時から一番下で、なんだったら誕生日は3月の26日。春休みが入ってしまうから、絶対にクラスメートに「お誕生日おめでとう」とは言われることのない人生だった。
寂しくもあるが不思議と安心感があるこの “絶対に年下”であるということ。
みんなよりも歳が下というだけで責任から逃れられるようなあの感じはなんなのだろう?
悪いのは私でも親でもなかった!
私は学生時代、誰よりも足が遅かった。
「誰よりも」は誇張しすぎたかもしれない。ビリから2番目くらい。
当時はそれがコンプレックスで、体育の時間はいつも苦痛で仕方なかった。
誰に迷惑をかけているわけではないのに、50メートルを全力で走る愚かしい姿をみんなに見られながら先生にタイマーを読み上げられる恥ずかしさ。自分では全ての力を振り絞って手足を動かしているのに、間抜けに見えることから不良でもないくせに本気を出していない不真面目なクズ扱いされることもあった。
しかし大人になってから「早生まれは損」であることが研究結果からも読み取れたというニュースを見て、私は一気に肩の力が抜けた。
悪いのは私じゃないし親の遺伝でもない、早生まれのせいなのだ!
美容師さんはもう年下ではない
誰にとっても年下であるということに安心して、ついでに責任からも逃れようとしてきた人生だったが、それも20代半ばを過ぎた頃から限界がきていることを実感し始めるようになった。
「もう年下ではない」という厳しい現実を突きつけた場所は美容院だった。
美容院といえば、大人の美容師さんが優しく接してくれて髪を綺麗に整えてくれる素敵な場所。どんな願い(わがまま)も叶えてくれる魔法のような存在……。
ところが、ある時気付いた。
そういえば美容師は大抵専門学校卒。2年で卒業できるところがほとんどのはずだ。そして大抵の人が高校を卒業したあとそのまま専門に進学する。ということはハタチで卒業。と同時に入社もするとして、Google検索によればアシスタント期間は平均で3年……。
つまり24歳には大体の人はスタイリストデビューしているということになる。
24歳!? 私より年下!!?
美容師も同じ人間であることに気付いてしまった。同じ人間どころか年下。
特に東京なんて駅の近くに行けば行くほど、都心に行けば行くほど若い美容師しかいない。田舎にあるような小さな個人店は少ない。
今まで綺麗なお姉さんとして接していた人が、私が年を重ねていくことによってどんどん減っていることが最近悲しくてしょうがない。
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