「1人で暮らすのも大丈夫な筋肉」は鍛えられる

と、ここで、最初のチベットの話に戻る。私は前回の連載で、「今は独身でもいいかもしれないけど、年を取ったら……」と不安を植え付けられることを「今はいいけどこの先は商法」と名付けた。そして、やっぱりこの商法はちょっと間違っているんじゃないかと思う。

というのも、実際に独身のまま50代になった人にそれを言われるのであればまだしも、既婚者に言われた場合、それは低地でしか暮らしたことがない人がチベットに住むことを心配しているようなものだからだ。ずっと独り身の人は、精神的にも経済的にも「一人で生きていく筋肉」を鍛え続けている。つまり、日々の生活の中で、血中の一酸化窒素濃度を上げ続けている。すでに標高3000mの中で暮らしているのだ。そのため、既婚者が40代や50代でいきなり1人になったらそりゃ寂しいだろうが、今独身の人がそのまま40代や50代になってもわりと大丈夫なんじゃないか、と私は結論づけることにした。もちろん全員とは言わない。50代くらいになって、ずっと独身でいたことを後悔する人も中にはいると思うけど……。

「筋肉」という言葉は、本書の中にも登場する。「1人で暮らすのも大丈夫な筋肉」は、鍛えることができるのだ。それは現在独身の人はもちろん、今パートナーがいる人も、相手に先立たれる可能性がある以上鍛えておいて損はない筋肉である。いずれにせよ、今後「生涯において結婚しない人」がアジア、ヨーロッパ、中東などなど世界的に増えていくことはほぼ確定しているらしいので、自分の属性に関わらず、本書を読んでみるといろいろな発見があるんじゃないかなと思う。

Text/チェコ好き(和田真里奈)