ずっと独り身の人は「一人で生きる筋肉」を鍛えているから大丈夫なんじゃないか

死ぬまでに一度でいいから訪れてみたい場所の1つとして、私は「チベット」をあげる。ヤマザキマリさんの『世界の果てでも漫画描き』3巻では、ヤマザキさんがチベット自治区のラサを旅行したときのエピソードが描かれており、読んで以来ずっと憧れだ。死ぬまでに一度でいいから、私もチベットでバター茶を飲んでみたい!

しかし、すごく行きたいのに私がチベット行きを即断できない理由として、高山病がある。漫画の中でヤマザキさん自身も高山病で苦しんだ様子が描かれているし、行くとしたら私はおそらく1人なので、異国の地で頭痛や吐き気で動けなくなるなんて怖すぎる。そういうわけで、未だ実現には至っていないのだが……。

当然ながら、チベットに住む現地の人々は、我々旅行者のように高山病になったりはしない。現地の人々は、低地に住む我々と比べて、血中の一酸化窒素濃度がかなり高いらしいのだ。遺伝的にそうなのか、現地で暮らしているうちにそうなるのかはよくわからないが、とにかく地元の人々は高山病にはならない。私が最近読んだエルヤキム・キスレフの『「選択的シングル」の時代』は、総括するとそんなことが書いてあったような気がする。

いい人が現れなくても幸せになる

著者のエルヤキム・キスレフは、イスラエル・テルアビブ大学で教鞭を執る、マイノリティー、社会政策、シングル研究の専門家だ。最近になってようやく「独身は未熟で不幸で孤独死する」というステレオタイプで独身者を差別することを「シングリズム」と呼ぶ動きも出てきたけれど、たまにXの婚活アカウントなどを見る限り、結婚しない人々を「何か問題があるやつ」として蔑む空気はまだまだ根強く残っている。

『「選択的シングル」の時代』は、そんな独身者を取り巻く現在の状況や、差別に対抗する術、そして1人で幸せに生きていくにはどのような方法があるかなどを解説する。独身が「幸せになりたいな」とぼやくとすぐに「そのうちいい人が現れるよ!」と言われてしまい、恋愛方面の何かを頑張るようプレッシャーをかけられる昨今、「いい人が現れなくても幸せになる」というアプローチを考えている本はとても珍しいので、それだけでも読む価値があると私は思う。

具体的に何をどう頑張ればいいのかはぜひ実際に読んで確かめてみてほしいのだが、まとめると5つ。1つは、独身差別に対する意識を高めること。「お前は問題のあるやつだ」と言われたとき、「それは差別ですよ」と言い返すことができれば、差別を内面化しなくて済む。他、ポジティブな自己認識を持つこと、シングルに優しい環境で生活すること、差別的な習慣を拒絶すること、自らの権限を強化することなどを本書はあげ、それぞれについて解説している。