『母親になって後悔してる』で気づく。独身でも既婚者でも後悔することがある

30代のうちはなんとか大丈夫な人も多いけど、40代になると本当に寂しいよ──とは、独身でいるとよく投げかけられる言葉である。私が思うに、おそらくこれは70%くらいは本当だ。私も、今は平気な顔をして休日も「原稿! 原稿!」と趣味の二次創作のことばかり考えているが、推しへの情熱もいずれは冷めるだろうし、40代になってから「結婚すればよかったな〜」と後悔する可能性が普通にあるな、と我ながら考えている。

では、「70%くらいは本当」と思うのであれば、残りの30%はなんなのかというと……40代の寂しさというのはいわゆる「中年の危機」というやつで、「結婚していればよかったなあ。寂しいなあ」と感じるその孤独は、結婚していても同様に訪れていたのではないか?と私は疑っているのだ。つまり、属性に関係なく誰しもに平等に訪れる孤独感を、「俺が(私が)結婚しなかったからだ」と独身のせいにしているのではないか、ということである。実際「なんとなく寂しい」「以前のような情熱や体力が消え、虚しさを感じる」などは、既婚で子供がいる人からもよく聞く。独身はその虚しさや寂しさの原因を自分が結婚しなかったせいにするし、既婚者は「とはいえ、結婚はしたから独身の人よりは俺の(私の)孤独はマシだろう」と(そんな意地悪な言い方はしなくても)無理やり納得しているのではないか。

そんなことを思いついたのは、イスラエルの社会学者であるオルナ・ドーナトの『母親になって後悔してる』を読んだから。「独身は寂しいよ、後悔するよ」とはよく言われるが、では、結婚して母親になれば後悔しないのか。そんなタブーに、本書は切り込んでいく。

「独身を後悔してる」は、実はもっとも言いやすい苦悩

『母親になって後悔してる』は、一度聞いたらなかなか忘れられないタイトルのため、刊行されたときはすごく話題になったし、中身を読んだことがなくても聞いたことがある人は多いはずだ。内容はタイトルの通りで、「母親になったことを後悔している」という女性に著者がインタビューを行い、その声を集めた研究書となっている。著者がイスラエル人のため、インタビュイーの女性たちもイスラエル人だ。そのため日本人と比較すると宗教的な考えにどうしても違いは出るが、読み進めていくと人種も国籍も関係なく、世界の女性たちが置かれている状況はだいたい同じであることに気づく。

「結婚しなかったことを後悔している」とは、実はもっとも吐露しやすい苦悩である。なぜなら、結婚しなかったのは私が決めたことで、「後悔している」と口にしてもそれによって傷つく人はいないし、周囲を巻き込まないからだ。さらに言えば、確率的に考えると難しいことには違いないが、40代だろうと50代だろうと、独身者が既婚者になることは不可能ではない。大変だけど、後悔しているなら今から婚活すればいいのである。

ところが、「母親になって後悔している」はどうか。そんなことを口にすると、まず「自分の子供を愛していないのか?」「産んだことを後悔しているということ?」と自分の周辺がざわつき、もっと状況が悪いと、子供への虐待を疑われる。ついでに、「母親になる」は不可逆で、「独身が寂しいのでやっぱり結婚します」のように、「母親になったけど大変なのでやっぱりやめたいです」とはいかない。子供がこの世に誕生してしまったら、もう戻れないのだ。そのため、心の中で後悔していたとしても、その声は表に出ることなく押し殺されてしまう──本書のように、学者がその声を丁寧に拾うことがなければ。