生まれてから死ぬまでのすべてを録画

『偽りのない事実、偽りのない気持ち』は、生まれてから死ぬまでをすべてパーソナルカメラで録画し続け、さらに強力な検索ツール「Remen(リメン)」が導入された世界を描く。

リメンは、「こないだいっしょに海に行ったとき」と話者が言えば、こちらが検索ワードを叩き込むまでもなく、すぐにそのときの動画を再生してくれる。言った言わないで口論になったときも、悲惨な結末を招いた提案をどちらが先に行なったのかも、リメンがきちんと証拠を残してくれている。ただ、人間は忘れることによって他人を赦すことができる、という一面もある。主人公はリメンが必ずしも人間に幸福をもたらさないツールだと考えるが、『デイシー式全自動ナニー』と同じように、この物語もやはりちょっと意外な結末を迎える。

未来はいつだって偶然によってもたらされ、完璧にコントロールすることはできない。テクノロジーの発達も予測できない。私が今している仕事も、大学生だった15年前には想像することすら難しかった。自己弁護をするわけではないけど、年長者の意見はいつだって半分聞き流すくらいでちょうどいいのだと思う。『息吹』を読んで考えたのは、そんなことだ。