学生時代にひどいB級映画を見まくったせいか、あるいはもともとの性格か、私はエロ・グロに対する耐性がかなりあるほうだと思う。加えて、エロ・グロと一緒にまとめるには不謹慎だけど、残酷な戦争報道、子供や老人への虐待、自死報道、その他残虐な事件の詳細などのニュースを何時間にも渡って見続け・読み続けても、私はあまり精神的なダメージを負わないタイプだ。
というと、「ものすごく冷たくて感性が乏しい人間」と思われるんじゃないかと逆にヒヤヒヤしてしまうのだけど、そんな私にも「地雷」と呼べる苦手なジャンルのニュースがある。それは、結婚・離婚・不倫など著名人の家庭に関する報道(ゴシップ)だ。
「結婚」は幸せなニュースだからいいじゃないかと思う人が大半だろうし、私もただ事実を述べているだけのものなら特に何も思わないのだが、妊娠の可能性について憶測しているような記事、あるいはツイートなどを見るとすぐに気が滅入ってしまう。離婚・不倫についても、たとえ夫婦のどちらかに不貞などの落ち度があったとしても、一度「こいつは叩いていい」と認識された人が一斉に怒られているところを見るとこっちが凹んでしまう。ようは、よその家庭に踏み込むような報道がかなり苦手なのだ。それ自体がダメというより、「よその家庭についてあれこれ憶測したり口出ししたりする権利が自分にはある」と思っている人を見るのが苦手というか……。
そんな私の苦手の話は置いておくとして、最近、一穂ミチさんの短編集『スモールワールズ』を読んだ。6つの作品が収められている本作は、2022年の本屋大賞にもノミネートされているのできっと読みやすく感じる人が多いと思う。6つの短編はどれも、「家庭」にまつわるものだ。
「普通の家庭」が暗転する
まずは3番目に収められている『ピクニック』から語らせてもらいたい。生まれたばかりの赤ちゃんと一緒に夫婦とその両親がピクニックをしているというとても平和な一幕から、この作品は始まる。でも実は、この平和な一幕にたどり着くまでに、一家が壮絶な体験を経てきたことが物語の中で明かされていく。平和なピクニックの次に来るシーンは娘・瑛里子が母・希和子に見守られながら孫・未希を出産する場面で、ここもまだまだ幸せいっぱいだ。その後の育児で躓くところも、瑛里子は夫との不和を解消しつつなんとか乗り越える。
瑛里子は楽天家ではありません。しかし、心のどこかに「そうはいっても」という気持ちがあったのは確かです。わたしはこれまでの人生で大きな失敗をした経験がない。受験、就職、結婚、と「普通」のレベルをクリアしてきた。自分がとりわけ恵まれていたとも、頑張ったとも思わない。求められることにその都度「普通」の努力で応えてきたからだ。そういうこれまでの道のりが「出産及び新生児の育児」でもなだらかに続いていくと信じていた節がありました。(p106)
瑛里子は初めての育児に躓くものの、数ヶ月かけてなんとか乗り越える。きっとこの先も、少しの問題は発生しつつも瑛里子の人生はおおむね平和に進んでいくのだろう。我々読者はそう安心する。しかしそのほっとしたところで、次の暗転が待っている……。
私自身の人生経験ももちろん影響しているんだろうけど、こういう物語を読むと、私は「よその家庭に口出しする」のはやっぱりできないなと思ってしまう。見えているのは一面で、氷山の一角にしか過ぎないからだ。
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